今回は『夜叉ヶ池』を取り上げる。長年にわたりソフト化されないできた、幻となりつつあった作品である。この度、4Kデジタルリマスター版として蘇り、Blu-rayのソフトが発売になった。
泉鏡花の原作を篠田正浩監督が映像化した本作は、最初から最後まで驚愕の映像のオンパレードになっている。
物語は、日照りが続く山里の村に学者の山澤(山﨑努)が訪れるところから始まる。山澤は山中をさまよい歩くうちに、ぽつんとした小屋に暮らす百合(坂東玉三郎)という女性に出会う。そして、百合と暮らす白髪の夫は、行方不明となっていた山澤の親友・萩原(加藤剛)だった。
萩原は山澤に、この地に伝わる「夜叉ヶ池」の伝説を聞かせる。この池には竜神が封じ込められており、村の鐘を一日に三回鳴らしている限り竜神は池から出ないというのだ。池を訪れた際に百合に惚れた萩原は、鐘楼守として村に残ることにしたと語る。
ここから一転、舞台は池の底に移る。そこには化け物たちが暮らしているのだが、これが凄い。三木のり平、丹阿弥谷津子、井川比佐志、常田富士男といった名優たちが特殊メイクで化け物に扮しているのである。これに美しい姫の扮装をした玉三郎(二役)を加えて誰もが舞台さながらの極端にオーバーな芝居を繰り広げていく。この段階で理性がショートしそうになる。
さらに、地上の村人たちがまたとんでもない。
彼らは雨を降らせるために百合を生贄に捧げようとするのだが、それを演じるのが金田龍之介、安部徹、南原宏治、山谷初男といった名うてのクセ者たち。これがそれぞれにリミッターを外して憎々しさを大熱演するものだから、特殊メイクなどなくとも怪物然として映し出されていた。
池底の百鬼夜行、地上の魑魅魍魎。その芝居だけでお腹いっぱいなくらい濃厚だが、ラスト十分がさらに強烈だ。
人間たちの愚行により、ついに竜神の封印が解かれる。そして、池の水があふれ出し、村を一気に飲み込んでいく。この水の量が、とてつもないのである。最終的には実際にイグアスの滝でロケーション撮影した大瀑布が映し出されるのだが、そこに無理なく自然に繋がっているように思えるほどの、凄まじい水が押し寄せてくるのである。
ミニチュア特撮、合成処理、ハワイの大波の実景――、さまざまな技法による映像を縦横に織り交ぜながら、映画史上でも類を見ない「水のスペクタクル」が約十分間にわたり観る側にたたきつけられてくる。
もう、ただひたすら圧倒されるしかない。