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チェーホフと比較されるのは光栄なこと

――『三姉妹』というタイトルは、チェーホフの『三人姉妹』を思い浮かべさせます。チェーホフの戯曲は、父を亡くしたあと、現実に幻滅しながらもどうにか生きていこうと葛藤する三人姉妹の物語ですが、この映画を作るうえで、チェーホフを意識された部分はありましたか?

©2020 Studio Up. All rights reserved.

 私は普段劇団を運営し戯曲も書いているので、チェーホフの作品はもちろん大好きです。ただ今回はたまたま同じタイトルとテーマになっただけで、特に参考にしたところはなかったように思います。とはいえ、実をいうと、チェーホフの『三人姉妹』の最後に「それでも私たちは一生懸命生きていかなければいけない」という言葉があり(注:神西清訳の新潮文庫版では「わたしたちの生活は、まだおしまいじゃないわ。生きて行きましょうよ!」)、同じセリフを劇中で使おうかと思ったことはありました。結局は使わずに終わりましたが。いずれにしても、チェーホフと自分の映画が比較されるのは非常に光栄なことです。

――三人姉妹をテーマにした映画では、イングマール・ベルイマン監督『叫びとささやき』(1972年)や、ウディ・アレン監督『ハンナとその姉妹』(1986年)などがあります。この物語を三人の話にしたのには、どんな理由があったのでしょうか。

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 最初は、ムン・ソリさんが演じる次女を中心に脚本を書き進め、それならキム・ソニョンさんにその姉を演じてもらおうと考えました。そうするうち、ここにもう一人素晴らしい女優が加わってくれたらさらに深みが増すのではと思いついたんです。三人の女性が登場することによってそれぞれの性格が際立ち、姉妹の生き方をよりしっかり見せられるはずだと。それと、韓国では三人姉妹というのはわりと普遍的な家族の姿だから、という理由もありました。

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――一方で、三人の姉妹と末の弟のジンソプとでは、その描き方に大きな隔たりがありますね。

 周りの人たちからも「弟がいるのだから、この映画は『三姉妹』ではなく『四姉弟』というタイトルが正しいんじゃないか」という意見を何度かもらいました。ですが、三姉妹と弟との間に大きな隔たりがあることこそが、重要だったんです。

 ジンソプは、三人の姉たちとは違い、今では幽霊のような存在になっています。そういう存在だからこそ父親の誕生日の席であのような振る舞いができたわけですが、いずれにしても、三姉妹と彼の存在は切り離して考えたかった。三姉妹が一生懸命トラウマから逃れようとしてもその記憶から離れられないのは、まさにジンソプという存在があるからです。彼女たちは傷を癒し、未来に向けて生きていかなければいけない。その使命の象徴として、ジンソプという存在を描いたつもりです。