「人生100年時代」と言われているが、心身ともに自立して健康でいられる「健康寿命」の平均は、男性72歳、女性75歳となっている。これは、「80歳の壁」を超える前に寝たきりや要介護になってしまう人が多いことを示しているのだ。

 ここでは、30年以上にわたり、高齢者医療の現場に携わる精神科医・和田秀樹氏の著書『80歳の壁』(幻冬舎新書)から一部を抜粋。和田氏が指摘する日本の高齢者医療の問題点と、医者・薬・病院との付き合い方を紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く

写真はイメージです ©iStock.com

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幸齢者になったら健康診断はしなくていい

 私は現役の医師ですが、現代の医療については、少し懐疑的なところがあります。理由は追々お話ししますが、一言で言うなら、医師たちの多くは「数字は見るが、患者は診ていない」と思うからです。その典型的な例が健康診断です。

 日本人の平均寿命が初めて50歳を超えたのは、1947(昭和22)年でした。その頃の「男女の平均寿命の差」は3歳ほどでしたが、いまではそれが6歳に広がっています。

 これっておかしいと思いませんか? なぜ、女性の平均寿命は延びたのに、男性は延びなかったのでしょうか。

 原因の1つに、日本人の「健康診断信仰」なるものがあると思っています。

 定期の健康診断の多くは会社で実施されており、ひと昔前までは、健診を受ける割合は、男性が圧倒的に多いという状況でした。

 健診が長生きに寄与するなら、男女の寿命は逆転してもよかったはずなのに、むしろ差が広がってしまった。つまり、健診が意味をなしていないということです。

 たしかに、健診はガンの早期発見などにつながります。これで命を救われる人もいるでしょう(かえって具合が悪くなる人もいますが)。しかし、健診で示される「正常値」なるものが「本当に正常なのか」は、疑ってみる必要があるでしょう。どの数値が正常かは1人1人違うからです。