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ジェンダーやフェミニズムの視点からシェイクスピアを読み解く

――ジェンダーをめぐる視点はどのように深まっていったのでしょうか。

北村 当初、ジェンダーの観点からシェイクスピアの何にどう切り込むかけっこう試行錯誤していましたが、ちょうどファン研究がさかんになり始めた時期でした。私は田舎出身なのでファンコミュニティについて知ったのは大人になってからですが、ある作品が共同体のなかでどう受容され文化になっていくのか、女性ファンにフォーカスして作品研究をするアプローチがすごくしっくりきたんです。

 歴史的にみて、追っかけからはじまる名もなき女性ファンたちの活動がいかにシェイクスピアを正典化したのかを掘り下げたのが、博士論文であり単著のデビュー作となった『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち』(白水社、2018)です。

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 通常のフェミニスト批評は、作品のなかの男らしさ・女らしさの対立などを読み解いていったりするんですが、私にはファンコミュニティと作品の関係のほうが面白かった。研究ではそういうことをやりました。一方、「発想で飛ぶ」ようなアプローチで、緻密な学術研究ではできなさそうなことを批評でやりたいなと思い、在学中から、映画や舞台について自由にブログで書いてきました。

 いまでは年40本以上、さまざまな商業雑誌やウェブメディア、劇場パンフレットなどに寄稿していますが、そんな近年の論考から選りすぐった「裏ベスト」アルバムのような一冊が『お嬢さんと嘘と男たちのデス・ロード』です。

 

――ジュリエットがロミオにスピード婚を迫った訳とか、ケアの視点で読み解いた『マッドマックス 怒りのデス・ロード』とか、まさに「発想で飛ぶ」スリリングな視点が満載でした。

北村 本書はジェンダーやフェミニズムの視点から、こんな解釈をしても面白いのでは?という私なりの提示です。必ずしもこういう解釈をしなくてもいいのですが、してもいいということですね。みんなが好きに読んで、好きに読み解いて、できれば好きに二次創作もやるような楽しみ方をしたらいいと思うんです。批評は、10人いたら10人の多様な解釈へと開かれています。社会のバイアスから解き放たれた思考で、空を飛ぶような楽しさを味わってほしい。

(撮影:深野未季/文藝春秋)

北村紗衣(きたむら・さえ)

 1983年、北海道士別市生まれ。武蔵大学人文学部英語英米文化学科准教授。専門はシェイクスピア、フェミニスト批評、舞台芸術史。東京大学の表象文化論にて学士号・修士号を取得後、2013年にキングズ・カレッジ・ロンドンにて博士号取得。2014年に武蔵大学専任講師、2017年より現職。著書に『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち』(白水社)、『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』(書肆侃侃房)、『批評の教室』(ちくま新書)など。