人生を変えた映画、ディカプリオ主演の『ロミオ+ジュリエット』
――ここで、北村さんがシェイクスピア研究者でかつフェミニスト批評家という非常にユニークな立ち位置に至った背景を教えてください。
北村 本書で詳述しましたが、中学生のときにレオナルド・ディカプリオ主演の『ロミオ+ジュリエット』(96)を映画館で観て、ものすごく面白いなと思ったんですね。とりわけ印象的だったのが、クレア・デインズ演じるジュリエットが埋葬されている霊廟のシーン。悪い大人たちのせいで若者たちが死ぬ哀しい話なのに、当人たちにとっては死が結ばれる唯一のやり方で、それが圧倒的に美しい祝祭空間として演出されていた。不思議な表現方法だと思いました。
私の人生を変えることになった映画ですが、同時期に『オセロー』や『ハムレット』を読み始めて、シェイクスピアの面白さに目覚めていきました。
――多感な思春期に、デヴィッド・ボウイをモデルにしたイギリス映画『ベルベット・ゴールドマイン』(98)からも強い影響を受けたそうですね。
北村 グラムロックがすごく好きだったので、70年代にクィアな(ジェンダーやセクシュアリティに関する一般的な決まりに当てはまらない)アーティストたちが作り上げた、こんなにも個性的で美しい、キラキラした世界があるんだと驚きました。私は北海道で生まれ育っているのですが、退屈な田舎で洋楽が生きる希望になっていた。こういう音楽をもっと聴き込んでいきたいと思ったのがのちにイギリスに留学した理由のひとつです。
シェイクスピアの舞台劇
――東大ではシェイクスピア研究者として著名な河合祥一郎先生のもとで学んでいますね?
北村 河合先生の授業で舞台を見るようになって、演出や俳優たちの動きをこんなふうに分析できるんだと、非常に新鮮でした。人の感情を台本から読み取って舞台化するプロセスも面白くて、学部の3年生のときの面談で、「私はシェイクスピア研究者としてやっていけますか」と相談したほど。河合先生からは「まだちょっと早すぎる。いまからそんなことは考えなくていい」と言われましたが(笑)。
その後大学院時代に運良く奨学金をもらえたのでロンドンに留学して、現地で一次史料を豊富に使える環境で、博士課程の研究に打ち込むことができました。当時は一流の劇団の舞台でも、ロンドンでは学生だと5ポンドとか10ポンドで観劇できて、様々なタイプの演出や演目に沢山触れられたのもすごく良かったです。