「赤ちゃんの出自を知る権利を考えれば当然の責務」
「健康保険証や生徒手帳の情報では将来お子さんがおかあさんについて知りたいと思っても辿り着けない可能性があります。戸籍謄本くらいの正確性を求めたい」
さらに戸澤氏はこう述べた。
「常識的に考えて、一民間病院の調査だけでは危険だと思いませんか。赤ちゃんの出自を知る権利を考えれば、我々が独自に調査を行うのは当然の責務です。それをしないことの方が問題でしょう」
なお、筆者が後日弁護士に確認したところ、保険証に書かれた情報を元に弁護士が職務上請求をかければ戸籍謄本の内容にたどり着くことは可能、との説明を受けた。
熊本市はゆりかごに預け入れられた赤ちゃんについて社会調査を行う方針をとってきた。全国の児相のネットワークや産婦人科への受診歴の照会などにより、2021年度までに預け入れられた161人のうち約8割について実母情報にたどり着き、赤ちゃんは実母の居住地の児相に措置移管された。
だが、今回はゆりかごではなく内密出産だ。法律やガイドラインがないことを理由に内密出産の根本である女性の「知られたくない権利」に踏み込んだ社会調査を行い、女性の個人情報を入手することは、プライバシーの侵害行為にはあたらないのだろうか。
「児相はあくまで子どもの側」と回答
内密出産では「なぜ出産を知られたくないのか」という女性の側の背景も考慮されなくてはならない。
だが、厚労省の担当部署を訪れると、取材に応じた担当課長補佐とともに同席した二人の職員は児相担当で、女性支援の担当部署からの同席者はなかった。内密出産について「赤ちゃんを守るための仕組み」との課長補佐の説明には、内密出産のガイドラインを取りまとめる厚労省において女性の匿名性についての検討と赤ちゃんの権利の検討が同等に扱われているのか、疑問を覚えた。
児相担当者は「児相の社会調査は必要な手続き」と述べ、今後も引き続き熊本市児相の判断に任せるとした。だが、産んだ女性が保護者との間に緊張関係のある未成年であることについて考慮はされないのかとの質問には「0日殺害遺棄のこともあるので私たちとしても悩ましい。でも、児相はあくまで子どもの側に立たなくてはならない」と答えるにとどまった。