そもそも格付等級は味を表すものではない
本来、格付等級は市場のプロ同士の売買の目安となる指標であり、味の指標ではない。なのに、いつからか格付けは肉の味を表す指標と誤解されるようになり、「旨い肉→価値がある→高い」となるはずの値付けは、「(サシの多い)高い肉→価値がある→旨いはず」という逆説的な公式のようなものが確立されてしまった。
この状態は決して健全とは言いがたい。少なくとも海外展開を視野に入れるなら、より赤身を重視したグレードがあっていい。
国内の複数の研究論文でも、脂肪交雑は35%付近の評価が高いという結果が出ている。ならば例えば「脂肪含量35%±3%」を基準とする格付制度をつくり、そこから日本酒度のように脂肪含量をプラスいくつ、マイナスいくつという指標のような形で肉の特徴を表すようにする。
既存の格付制度が悪いわけではなく、単に時代に合わなくなっただけの話なのだから、基準を再定義すればいい。脂肪交雑ではなく、いい味を作るための飼料設計も畜産家や国が総力を挙げて再構築する。
サシの入った黒毛和牛を海外に届けるには
実は国にも畜産に対して危機感はある。2015年7月には「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」が策定された。農水省も「牛肉の格付けの仕組みについて」のなかで「脂肪交雑以外の価値を実需者・消費者にどう訴求していくかが課題」としている。
具体策にも踏み込んでいて「従来のサシ中心の格付に加え、食味や成分による牛肉の評価手法を開発」と評価手法に触れ、「成分(脂肪酸、アミノ酸など)、物性(かたさ、水分含有量など)」といった評価基準を挙げている。
その上で「サシが多いほどいい肉」ではなく、「この肉はサシが多いので、しゃぶしゃぶ向き」 「この肉はサシがほどほどなのでステーキ向き」というふうに適性を定義する。「マーケット」ではなく「お客様」に評価される肉かどうかを食肉卸や精肉店が真摯に考え、「A5」に拘泥することなく、好まれる肉の基準を再構築する。
あくまで嗜好品なのだから、国内市場向けと海外市場向けに異なる基準があってもいい。35%を基準としても、海外向けとしては、サシは十分多い。そのサシの入った黒毛和牛を海外にどう届けるか。
そこで焼肉だ。
現在の日本の焼肉は独特の業態であり、鮨やラーメンのようにパッケージで丸ごと提案する手法を模索する。格付けから肉の切り方、料理の手法まで、「和牛」の届け方にはまだまだ工夫の余地はある。和牛と食肉の明るい未来に向けて、「焼肉」が担うことはあるはずだ。