和牛、A5、熟成肉……。肉のおいしさを表現する指標として、こういった言葉が用いられることは数多い。しかし、さまざまなメディアで焼肉の焼き方を検証してきた松浦達也氏によると、国内には肉の味の優劣を示す指標は存在しないのだという。
それでは、「おいしい肉」とはいったいどんなものなのだろうか。ここでは、同氏の著書『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)の一部を抜粋し、牛肉の正しい選び方について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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おいしい肉はどう探す?
「おいしい肉探し」は、肉好きにとっての永遠のテーマだ。そもそもおいしい肉の定義や基準などどこにもない。
こういうことを言うと、「えっ。和牛は?」とか「A5は?」とか「熟成肉!」という声が聞こえてきそうだが、実は国内には味の優劣を示す指標は存在しない。
現在の日本の格付制度においては可食部の多さによってA~Cの3段階からなる「歩留(ぶどまり)等級」でも、脂肪交雑を基準に5から1までの「肉質等級」においてもA5が最高ランクとされている。実際に芝浦などの食肉市場でも、A5が最高級として扱われ、高値がつく。
だが「歩留等級」は可食部の比率で、肉質等級はサシの入り方。「味」自体の等級を区別する基準は存在しない。そもそも食味自体、きわめて複雑なメカニズムで、肉の味や香りにまつわる研究は、各研究機関で行われ続けているが、まだまだ牛肉の味わいはベールの向こうだ。
だからメディアや消費者や飲食店が「A5」をおいしさの目安であるかのように用いることには違和感がある。
そう言うと「A5がまずいと言っているのか」とお叱りを頂戴しそうだが、実際にはおいしいA5もあるし、そうでもないA5もある。「A5=おいしい肉とは限らない」のだ。そもそも格付は味の基準ではないのに、あたかも味の指標であるかのような使われ方をしている。そうした現状に対して、それこそ消費者庁には工夫をお願いしたい。目の前の指標は何についてのものなのか。大勢に流されることなく、考察、探求する姿勢もまた焼肉を愛する者としてのたしなみである。
店を育てるために消費者にできること
では消費者自身にできることはないのかというと、実はある。おいしい肉に当たったら、どの肉がおいしかったかを指名するのだ。「なんだ。そんなことか」と思うかもしれないが、これが意外と効果がある。