「焼肉」は“肉質”もさることながら“焼き方”でも味が大きく変わる料理。それだけに、よりおいしい肉を味わうべく、焼き方にこだわりを持つ人も多い。しかし、そのこだわりが間違っているとしたら……。
ここでは、調理の仕組みや科学、食文化史などを踏まえた執筆・編集を行う松浦達也氏の著書『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)の一部を抜粋し、間違えた焼き方の典型例、そして肉種・条件別のおいしい焼き方を紹介する。(全2回の1回目/前編を読む)
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ていねいに焼いておいしく、乱暴に焼いてもおいしい焼き方
僕はこれまで、さまざまな雑誌やテレビ、その他メディアで焼き方の検証を繰り返してきた。業務だけで数千枚、考えながら焼き方を試してきた。もともと実験や検証が好きなおかげで、よく雑誌やウェブ記事で焼肉の検証企画のお声がかかる。以前、とある雑誌で「焼肉は何ミリカットがベストなのか」という企画を行うことになり、“精肉の名人”サカエヤの新保吉伸さんに手切りでタン、ハラミ、レバーの3種類の肉を、2mm、5mm、8mm、12mmの4パターンにカットしていただいた。ちなみにカルビやロースを除外しているのは、別の雑誌の企画でカルビとロースは検証済みだったのと、カルビやロースといった正肉は個体によって焼き方がかなり変わるからだ。
肉は一般的な焼肉店だとだいたい5~8mmくらいの厚さで切ることが多い。5mmだといわゆる並(やや薄め)、8mmだと厚切り。5mmは基本さえわかれば誰でもおいしく焼くことができるし、8mmだってていねいに焼けば、まずおいしく食べることができる。
焼肉のおいしさは結局のところ、「表面に適度な焼き目がつき、内部が適切に温まっている」状態をいかにつくるかに尽きる。
「たったひとつの確実な正解などない」
理系っぽい言い方をすると、「表面は加熱による強いメイラード反応とカラメル化のダブルの反応が起き、内部は筋線維からの水分の離水が少ない60℃程度までの加熱で多汁性を保った状態」とでも言えるだろうか。それを実現しやすいのが、5~8mm程度の厚さというわけだ。
もっとも表面に焼き目をつけるかどうかは肉質や食べる人の嗜好や体調にもよるし、ロースなどは火を入れすぎないほうがおいしく食べられる場合もある。