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「俺は偉いのだ」「焼肉を知っている」と見栄を張りたい人がトングを持つと…焼肉のスペシャリストが明かす“間違えた焼き方”の典型例

『教養としての「焼肉」大全』より #2

2022/07/15
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 関西の焼肉店でドバーッと流し込む人は、こうした焼き網ロースターに慣れている人が多い。ガス火の直上のみ強火で中央部が弱火だから強火の部分で焼き目やちょっとした焦げ目をつけ、中央部で休ませる間に肉全体に熱を回すという焼き方だ。

ほんのわずかの焦げ目の味がアクセントに

 ちょっと手はかかるが、焼く場所が明確で休ませる場所が広いということは、焼き方次第で一度に大量の肉を焼くことができる。シビアな焼きには不向きかもしれないが、大勢でロースターを囲み、バンバン焼いてどんどん食べ、ガンガン飲むようなときには、むしろ向いているかもしれない。

 まとめて焼いて8割方仕上げて、中央の休ませゾーンに退避させる。最後は食べたい人が火の直上で仕上げの焼き目をつけ、酒を飲み、メシを食う。火の上だけが焼き台でセンターが大皿のイメージ。空いた焼き台には次々と新たな肉を放り込む。これは乱暴に見えてかなりテクニカルな焼き方と言える。香ばしい焼き目に加えて、ほんのわずかの焦げ目の味がアクセントとなって酒とメシが進みまくる。さすがは関西、(牛)肉の本場である。

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時間をかけて焼き上げる「飲むロース」

 もうひとつ、東京・銀座にある某老舗焼肉店のロースもまとめ焼きだ。この店はスタンダードなスリット入り鉄板×ガス火。皿に山盛りにされたこの店のロースは目分量ながら4人盛りで200g以上はあるだろうか。

 この「飲むロース」とも称されるロースを、皿からザバーッと鉄板上に流し込む。この時点でこの店の焼き方を知らない人は、雑に見えてしまうだろう。しかしそうではない。この焼き方はこの店のロースならではの焼き方なのだ。

 まずこちらのロースは、雑に流し入れてはならない。ガス火の直上を避けて、中火ゾーンのセンターに一文字になるように肉をまとめる。それを下から上へ、下から上へと何度も上下を返しながら、火の直上には当たらないよう、全体をじわじわと加熱していくのだ。

 かくして全体がほどよく色が変わった頃、時間をかけて焼き上げたロースは温かく、やわらかく、ふくよかな味わいの食べ物へと変貌を遂げるのである。

「俺は偉いのだ」「焼肉を知っている」と見栄を張りたい人がトングを持つと…焼肉のスペシャリストが明かす“間違えた焼き方”の典型例

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