SNSを通じ、直接アスリートに誹謗中傷の被害が…
「メディア対応」「ネット記事の評価」「スポンサーとの取り決め」…これまでのスポーツ界にはなかったような蛇口がいくつも増え、注がれる水はその量を増す。ある海外の研究では、アスリートのストレス原因は640以上にものぼるとされている。
いくつもの要因が重なって水があふれ出すと、それは心の不調となって現れてしまうという。そして、この蛇口の多様化と切っても切れないのが、SNSの普及だ。
去年の東京オリンピックでは、自国開催というだけでなくコロナ禍での開催の是非をめぐって様々な意見が飛び交い、国民の大きな関心の的となった。
そうした中で、アスリートにも矛先が向いた。
アスリートが五輪開催に対する意見表明を求められ、その賛否について発言するとそれに対するバッシングも寄せられた。SNSを通じて直接、選手に批判的な意見が送られるケースが相次ぎ、アスリート自らが次々と誹謗中傷の被害を打ち明ける異例の事態となった。「遠い存在」だった人たちと直接つながることができるSNSの、負の側面があらわれてしまったのだ。
「フィギュアスケーターなのにスタイルが悪い」という言葉が…
フィギュアスケートで2大会連続のオリンピック入賞を果たした鈴木明子さんも、ネット上などで誹謗中傷を受けた経験を持つ。
自身に向けられた心ない言葉が、どれだけ心にダメージを与えたか、番組の取材に対してそのときの心情を打ち明けてくれた。
「例えば容姿のこととか、『フィギュアスケーターなのにスタイルが悪い』とか、『早くやめてしまえ』とか、そういう言葉がたくさん並んでいて。それを見たときに、胃液が上がってくるような、『うっ…』ってわきあがってしまうものがあって」
実際に届くメッセージのほとんどは応援や励ましだということを、鈴木さんは頭では理解していた。ただ、ごく一部の人が送ってくる誹謗中傷が、心に深い傷となって残ってしまったという。鈴木さんは、誹謗中傷が自分の心に入り込んでくる感覚を、こう表現していた。
「真っ白な絵の具に、黒いものが垂らされたような感覚なんです。それって一瞬にして広がってしまうじゃないですか。白にのまれるのではなく、どんどんグレーに広がるような印象があるんです。うまくいかなかったり、結果が出なくなってきたときほど、そういうのはすごく大きくなっていくんです」