──実にいいですねえ(笑)。
王:それだけで終わりませんよ。現地の地方政府が悪徳業者を守る様子も撮るわけです。まず、村にある屋外放送スピーカーにカメラを向けてですね、現地の地方政府に「私たちはCCTVの『焦点訪談』の記者です。あなたがたの村で食品偽装をやっていると聞きまして……」と、わざと電話をする。すると数分後、村の屋外放送スピーカーから「お前たち気をつけろ! CCTVの記者が嗅ぎ回っている。マズいものは全部隠せ!」と放送が流れるんです。
──その放送が流れる様子も撮ったわけですね。
王:撮りましたとも、一部始終を(笑)。ですから、当時の私たちの仕事は世間の人からずいぶん感謝されたものです。それに、当時の指導者の江沢民総書記や朱鎔基総理も放送を見ていました。江総書記が番組で問題を取り上げられた地方政府に直接電話を入れた例もありますし、朱総理がCCTVを視察した際に「焦点訪談」の番組を名指しで褒めてもらったこともあります。
北京市の「救急車腐敗」の報道に圧力が
──現在からは信じられない話です。2017年にCCTVを退社された理由を教えてください。
王:ふたつあります。ますひとつは、ネットメディアの台頭とテレビメディアの没落です。CCTVの影響力が徐々に落ちているのは、現場の肌感覚として覚えていましたから。ただ、もうひとつの理由は報道内容の制限がどんどん強まったことです。やりたい報道ができない、やった取材が報じられない……。
──往年のようなことは難しくなった。
王:ええ。CCTVで最後に、北京市の救急車問題をやったんですよ。普通、救急搬送はできるだけ近い病院に送ったほうが望ましいですよね。しかし、北京市の救急車は、まず自分の病院に送る。それから患者の支払い能力を見て、カネになるなら自分の病院で受け入れ、カネにならないようなら他の病院に送るんです。
ひどい話でしょう? しかも北京市は広大です。仮に近くに他の病院があっても無視して、現場から50キロ離れた自分の病院に向けて搬送するんです。長い移動の途中で急病人や怪我人が死んだとしてもお構いなしです。
──それって、現在の話ですか?
王:2016年の話ですが、結果的には現在まで改善されていません。私はそれを取材して救急車の闇を暴いたのですが、放送が許されなかったんですよ。それでCCTVに絶望しました。抗議のため出社を拒否してから1年後、「社に来るか辞めるかを選べ」と聞かれたので、退職を選びました。
中国共産党「要注意人物リスト」の怪
──現在、王さんは中国政府の「リスト」(名単)の第2グループに属すると聞きました。
王:ええ。このリストの第1グループは出国それ自体が禁じられています。私はいちおう(要監視の)第2グループですが、いまはもう中国に帰国したくないですね。いちど帰ると、もう出国できないかもしれません。