──たとえば天安門事件のリーダーの王丹みたいな人は、第1グループになるわけですか。
王:いや、それは違います。この「リスト」は、反体制的な人物だけが載るわけではないんですよ。たとえば毛沢東の晩年の秘書の張玉鳳は、なにか政治的な意見を持っているわけではありませんが、回顧録を書いたり出国したりするのは絶対に許さないということで、リストの第1グループに入っています。
かつて、毛沢東の主治医の李志綏が海外で刊行した回顧録(『毛沢東の私生活』)が中国共産党に大打撃を与えてから、決まりが整備されたんです。重要な国家機密を知っている人間は、出国してはいけないわけです。
日本人記者への監視は意外とユルい?
──当然、中国共産党は日本人の記者も監視対象にしていますよね?
王:言うまでもありません。
──しかし不思議です。私は昨年10月、過激な言動で知られる中国の駐大阪総領事を取材したのですが、彼らは当時、私の身元をほぼ調べずに取材をOKして総領事館に入れているんです。大使館ではない末端の総領事館とはいえ、私をまったく警戒していなかったのはかなり意外でした。
王:その総領事は日本の事情を理解していない人なんでしょう。
──てっきり、中国側には在外公館に来る人物をすべてサーチできる、全世界の要注意人物をチェックするデータベースみたいなものがあるだろうと思っていましたが。
王:私の感覚だと、そういうものがあるかは微妙ですね。もし、あなたが中国に駐在する特派員なら、彼らはすでにある監視メソッドにしたがってきっちり監視します。どの場所に行ってはならない(という基準もあり)、取材時にはおそらく尾行がつく。
ただ、中国国外にいる外国人記者となると、どうでしょうか……? 中国の指導者のスキャンダルを暴いて国際的なベストセラーになるなどして、世界レベルの知名度がある人ならリストアップされるかもしれませんが、そうでもなければ大丈夫だと思います。旅行での入国ならなおさらです。
──「リスト」第2グループの当事者がそう言うと説得力があります。
王:要注意外国人リストがあったとしても、名を記されている人は非常に少ないと思います。そもそも、中国が必死でチェックしているのはCNNやBBCなどの欧米媒体で、日本のメディアはそれほど真面目に見てはいないのです。
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現在発売中の「文藝春秋」10月号にも王志安インタビュー「『中国の池上彰』への言論弾圧」(聞き手・安田峰俊)が掲載されています。ぜひあわせてご覧ください。