その熱波は数百メートル先の報道陣にも伝わった。ニックは「自分も焼けてしまうんじゃないかと思った」。ウェインも、巨大なオーブンが目の前で開いたかのような熱さに、とっさに背を向けた。
報道陣の前に寺院からまず飛び出してきたのは、ナパーム弾の直撃を免れた住民や兵士だ。煙のせいで涙が出続ける目をタオルで拭いながら出てきた女性に続き、大人や子どもたち、南ベトナム兵、そして犬も走ってきた。
キム・フックの親族らが現れたのはその後だ。祖母タオは、全身が火ぶくれになって皮膚もずるりと剥けた孫のジャンを抱え、茫然自失の様子で歩いてきた。「助けて、孫を助けて」と言いながら力なく報道陣の輪の中に入っていったタオの白いシャツは、ジャンの血で赤く染まっていた。
ニックはタオに焦点を当て、カメラのシャッターを押した。
キム・フックは炎に追われながら「お母さんはどこ? お兄ちゃんや弟は?」「もう死んじゃうの?」と混乱していた。幸い、足には火が回っていない。彼女は泣きながら、国道めがけて走った。
しばらくして右斜め前に、白シャツに黒い半ズボン姿で泣きながら走る兄タムや、5歳の弟フォックが見えた。左斜め後ろからは、寺院の中庭へ逃げ込んで直撃を逃れた10歳の従姉妹が、幼い弟の手を引きながら走ってついてくる。後ろから、他の南ベトナム兵も出てきた。
キム・フックの前に、ヘルメットと迷彩服を着けた白人やベトナム人の男性が、何かを構えて待ち受けているのが見えた。遠目に銃のようにも見えたそれは、いずれもカメラだ。
「熱いよ、すごく熱い!」
キム・フックは両腕を左右に大きく広げ、顔をゆがませ、「熱いよ、すごく熱い(ノン・クア、ノン・クア)!」とベトナム語で叫んだ。居並ぶ報道陣の中、ITNのウェインの元に飛び込む形となった。
ウェインの記憶では、逃げてきた子どもたちは当初、しばらく無言で走っていた。「ショックが大きすぎたためではないか」とウェインは感じた。子どもたちが叫び始めたのは、報道陣を目にしてからだ。
ウェインもニックも、少女の一人が裸で、皮膚が黒やピンク色に焼けただれているのに気づき、「これ以上は撮れない」と立ちすくんだ。
全身を大きく震わせ、「熱い」「死んじゃう」と叫ぶキム・フックの口元に、ウェインは持っていた水筒を取り出し近づけた。彼女は水をごくごくと、勢いよく飲んだ。ウェインはさらに、残る水を彼女の頭からかけた。少女をなんとか助けようと、膝をつきながら。
ニックもカメラを置いて、自分の水筒から水をかける輪に加わった。「死んでしまうんじゃないか」と、必死な表情で。
キム・フックは、がくがくと震えながら「水は、かけるんじゃなくて、飲みたい」。その小さな口に、ニックは水筒を当てた。ニックは誰かからレインコートを借りて、全裸の彼女の身を包んだ。
キム・フックの意識は、その辺りで途絶えた。