認知症の高齢者が入居する施設「グループホーム」について知っているだろうか。

 ノンフィクション作家で科学技術ジャーナリストの松浦晋也さんは、2017年1月に認知症を患った母をグループホームに入居させた。2年半の自宅介護の末、精神的に追い詰められた松浦さんが暴力沙汰を起こしたことがきっかけだった。

 ここでは、松浦さんの著書『母さん、ごめん。2』(日経BP)から一部を抜粋。グループホームの職員から「お母さまから“ごはんがおいしくない”って言われるんですよ」と聞かされて、試した対処法の数々を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む

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ホームの食事に「まずーい」 グルメな母をどうしよう

「退屈だ」、そして「ごはんがおいしくない」――グループホームに入居した当初、母の文句はこの2つに集中した。

「退屈だ」には本を持ってくることで対処した。ひょっとしたら、母は入居がそのものが不満で、不満のはけ口として私に「退屈だ」と言っているのかもしれない。それでも差し入れる本を読むことで、いくらかは「退屈だ」という言葉も減った。

 が、「おいしくない」は、どうすべきか。食事が口に合わないといっても、これはなかなか解決が難しい。 

 グループホームの食事は、当番のスタッフが交代で調理している。昼間、入居者が過ごすダイニング兼リビングには、しっかりしたキッチンが併設してあり、調理しながら入居者と会話をすることもできる。

 調理そのものも、入居者が参加する作業のひとつになっていて、スタッフはひんぱんに「○○さーん、ちょっとこのタマネギ切ってくれますか」というような声かけをする。Kホーム長の言う「誰かの役に立っているという実感を持ってもらう」というやり方だ。

 母も時折声をかけられて、野菜を切ったり、茹で物の火加減を見たりしているという。「これは、そうじゃなくて、こうやるの」などと威張って教えたりもしているとのこと。それを「松浦さんよく知っていますねえ」と持ち上げるのもまた、スタッフの業務の一環である。キッチンに立つのはスタッフだけではない。時にはKホーム長自らがキッチンに立つこともある。