担当の武藤には、ペドロに自立の意思と働く意思があること、そして、日本で生活の基盤を作り、ブラジルの家族を呼び寄せようとしていることが分かっていた。そんな人間のSOSを無下に断ることはできない。
生活援護課の理念は「断らない相談支援」
「断らない相談支援」。これは生活援護課が掲げる理念だ。文字通り、外国人であろうが、市外の人間だろうが、座間とつながりができた人間の相談は断らずに聞く。
もちろん、相談を聞いた上でできることとできないことはある。また、あくまでも自立したいという本人の意思があってこそのサポートである。それでも、相談者の状況が好転するように、できる限り伴走する。
その立役者は、課長の林星一だ。生活保護利用者の相談業務に当たるケースワーカーとして座間市に採用された2006年以降、一貫して座間市の困窮者支援に関わっている。
林と自立支援との関わりは、生活困窮者自立支援法が施行された2015年4月にさかのぼる。この時に、生活援護課に新設された自立サポート担当(自立相談支援員)に就任すると、行政の枠を超えた今の座間市の困窮者支援体制をつくり上げた。
丸刈りで恰幅のいい、目元の優しい人物だが、「情熱的で熱い男」とケースワーカー時代の上司だった座間市役所子ども未来部部長の内田佳孝が表現するように、ひとたび福祉について語り出せば強い思いがほとばしる。
林が「断らない相談支援」という看板を掲げる理由、それは話を聞かなければ、生活困窮の実態が分からないということに尽きる。現に、生活困窮者の置かれている状況は一人ひとり異なる。
引きこもりの家族を抱える家庭もあれば、年金生活の高齢者、障がいのある人、ひとり親、派遣切りなどで仕事を失った人など置かれた状況は様々だ。
また、就労が可能な人であれば自立支援の一環として職探しのサポートに、生活保護の受給資格のある人であれば生活保護につなぐことができるが、就労経験がほとんどなくすぐに就労ができない人や就労を望まない人は存在する。借金があり、先に債務整理が必要な場合も少なくない。
それぞれの状況があまりに異なるために、じっくりと話を聞いて本人の状況を把握しなければ、適切な対応を取ることができない。それゆえに、入り口で断らず、まず相談を受け止める。ペドロとのやり取りが象徴しているように、外国人だろうが、市外の人間だろうが、誰であろうが門戸は閉ざさない。
現実を見れば、生活援護課に相談に来た段階で、どうにもならない状況に陥っている場合も多い。