そう感じた伊藤は大学病院に行き精密検査を受けたが、数値の上は何の問題もなく、原因が全く分からないという。原因を求めて様々な病院を訪ねたが、どこで検査しても分からなかった。
そして、ベッドから起き上がるのもきつくなり、ついには寝たきりになった。その状態は、15年以上も続いた。
「発熱もきついといえばきついんですが、体全体が鉛になったような感覚で、重くて全く動かせない。基本的にずっと寝ていました」
それまでバリバリ働いていたのに、突然、寝たきりになるというのは想像を絶する痛苦だ。原因が分からないのであればなおさらだろう。ただ、生来のプラス思考だろうか、終わりの見えない寝たきり生活の中でも、伊藤の気持ちは切れなかった。
「あと何日かすれば、すっとよくなると思っていたんですよね。当時は父も生きていて、見舞いに来てくれた友人と父がベッドの横でお酒を飲んでいるということもよくありましたし。ものすごく落ち込むということはなかったです」
40代、体重30キロからの再出発
寝たきり状態だったが、頭は常にクリアだったため、体を起こせる時は通信教育の添削の仕事をしたり、起き上がれない時もベッドに取り付けたブックスタンドで本を読んだりと、できることをしていた。今のようなリモート環境があれば、タブレットやパソコンを使って仕事もできただろうが、当時は家の中でできる仕事が限られており、働きたくても働けるような環境にはなかった。
「テレビも見ていたんですが、すぐに疲れてしまうので、本を読むか、考え事をしていました」
その状況が動き始めたのは、40代になってからだ。それまで、伊藤を支えてくれた父が倒れたのだ。そして、家事や見舞いを一人でこなす母を見て、自分も何かしなければと、食事の準備などを手伝い始める。長引く寝たきり生活で体重も30キロを割り込んでおり、立ち上がるだけでもかなりの負担だったが、無理矢理にでも体を動かしているうちに、徐々に動けるようになっていった。
父が亡くなった2010年には、外に出られるくらいには回復していた。