15年を超える寝たきり生活の結果、20~30代の大半という、人生の中でも重要な時間を失うことになった。だが、自分はまだ老け込む年齢ではない。これからの人生でできることもたくさんある──。気を取り直した伊藤は、自分と同じように、働きたいのに働けない状況にある人をサポートしようと考えた。営業が得意な自分が受け入れ先を開拓し、就労の機会を提供するというアイデアである。
「病気でいろいろ考えていた時に、日本には20~30%の状態の人でも働けるような場所がないな、と。そういう仕事をつくり出して、働きたいのに働けない人をつなぎたいなと思ったんです」
伊藤が見つけた「新しい仕事」
もっとも、当時の伊藤は就労支援や福祉について何も知らない状態だ。そこで、自分の思いを形にするためいろいろ調べ始めると、「パーソナル・サポート・サービス」の存在を知る。
パーソナル・サポート・サービスとは、生活困窮者自立支援法の前身に位置付けられる制度で、失業や健康問題など、様々な事情で生活上の困難に直面している人に対して、専門の担当者が自立に向けた個別支援を提供するという仕組みだ。民主党政権下の2010年に内閣府のモデル事業として始まり、横浜市や釧路市、京都府、野洲市などの自治体が実施した。
このモデル事業に相模原市が手を挙げたことを知った伊藤は、「就労先の企業開拓で協力しますよ」と営業に行き、同市のモデル事業を手伝い始めた。そして、モデル事業の中で知り合った人から、千葉県でユニバーサル就労を手がける生活クラブ風の村の存在を聞かされる。
「伊藤さんがやりたいって言っているのは、こういうことじゃないですか?」
そう教えてくれたのだ。