近年、日本の難民認定率は1%にも満たない。ロシアの軍事侵攻によってウクライナから避難してきた人々に対しては、入国要件を緩和しているが、ウクライナ侵攻以前の日本政府は、戦争・紛争から逃れてきた人々や外国人に対して“冷淡”だったのだ——。

 ここでは、日本政府の外国人政策の闇を暴いた『外国人差別の現場』(朝日新聞出版)から一部を抜粋。ジャーナリストの安田浩一氏が取材した、搾取と差別に苦しむ外国人労働者たちの実態を紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く

写真はイメージです ©iStock.com

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「労働法違反のデパート」

 携帯電話が鳴りやまない。通話が終わったかと思うと、10分も経たずに着信音が響く。そのたびに甄凱さん(ケンカイ、63)は「ごめん」と軽く詫びてから私との話を中断させる。電話の相手は各地の労働組合や外国人支援団体、弁護士、記者、会社経営者、そして外国人技能実習生たちだ。

 時に“利権”を守るのに必死なヤクザから、恫喝口調の電話が入ることもある。甄凱さんは日本語と早口の北京語を使い分け、それぞれの相談や訴え、脅しにも耳を傾ける。

 変わらないなあと思う。20年前に知り合った時から、甄凱さんはずっとこんな感じだ。追われているのか、追っているのか。顔の見えない相手に頭を下げたり、怒鳴ってみたり。とにかく忙しい。

「変わらないのは実習制度も同じですよ」と甄凱さん。

「あらゆる人権無視が横行している。実習制度の本質的な部分は、ずっと変わっていないですよ」

 そう話しているうちに、また電話がかかってくるのだ。

 賃金の未払いがある、残業代を支払ってもらえない、社長のパワハラ、セクハラに耐えられない、休日をもらえない、労災を認めてくれない、社長に抗議したら国に帰れと言われた——そうした労働現場からの相談が次々と持ち込まれる。

「実習制度は労働法違反のデパートみたいなものです」

 甄凱さんは吐き捨てるように言った。