文春オンライン

時給400円、残業200時間超、賃金未払い…「労働法違反のデパート」と化した外国人技能実習制度の“悪夢のような実態”

『外国人差別の現場』より #2

note

外国人技能実習生の労働問題の実態

 実際、全国の労働基準監督署による立ち入り調査(2021年発表)でも、実習生を受け入れる事業所の約7割で労働基準関係法令の違反が確認されている。また、同年に発表された賃金構造基本統計調査では、実習生の賃金水準が日本人を含む同年代の労働者全体の約6割にとどまっていることも判明した。

「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(技能実習法)は実習生の報酬を「日本人と同等以上」と定めているが、遵守されている形跡はない。

「企業からすれば、実習生を日本人と同待遇にするのであれば、そもそも実習制度を利用する意味もなくなりますからね」

ADVERTISEMENT

 甄凱さんの指摘は、まさに問題の本質を突いたものでもある。

甄凱さんが実習生の労働問題に関わるようになった理由

 初めて会った時、甄凱さんは埼玉県内で中華料理店を経営していた。大きな鍋を器用に動かす姿をいまでも覚えている。

 1986年に中国・北京から留学生として来日した。東京都内の大学で法律を学んだ後、大手アパレルメーカー、貿易商社などに勤務。その後に中華料理店を経営するようになったのだが、実習生の労働問題に関わるようになったのは同時期である。21世紀を迎えたばかりの頃だった。

 たまたま店に食事に来ていた中国人実習生から悲惨な労働実態を聞いた。時給は地域ごとに定められた最低賃金(最賃)の半分以下、休みもほとんどない長時間労働。強制帰国をちらつかせながら、社長は実習生を人間扱いしないという。

 義憤にかられた甄凱さんは、実習生の勤務先に乗り込んで社長と直談判、違法な労働環境を改善させた。以来、口コミで彼の名が実習生の間に知れ渡り、当事者だけでなく、労働組合や外国人支援団体からも、通訳兼交渉人としての応援を求められる機会が増えた。

 私もまた実習生問題の取材に取り組み始めたばかりの頃で、取材先で知り合った彼について回った。後に帰国した実習生を追いかけて中国国内を幾度か訪ねた際も、その多くに同行をお願いした。

 現在、甄凱さんは中華料理店をたたみ、岐阜一般労働組合の外国人労働者担当専従職員として活動し、行き場を失くした外国人のシェルターも運営している。

 甄凱さんの活動は、これまでにも多くのメディアが報じてきた。例えば2017年、時給400円という低賃金で働かされていた縫製工場の実習生たちが、甄凱さんの声掛けで労組を結成し、発注元の大手アパレル会社に押しかけた時などは、テレビ、新聞などの大手メディアがこぞってこの話題を追いかけた。ある民放キー局はこの1件でドキュメンタリー番組までつくっている。

 あまりに反響が大きかったこともあり、発注元のアパレル会社が〈製造現場について更なる関心を払い、弊社の商品がそのような環境下で製造されることがないように努力をして参る所存です〉と謝罪声明を発表するなど、異例ともいうべき解決を果たしたこともあった。