甄凱さんが繰り返し訴える実習生問題の核心とは
「実習生問題の核心は日本の産業構造そのものにある」
甄凱さんは繰り返し、そう訴えている。
不況業種がこぞって実習生を雇用するのは人件費負担と人手不足に悩んでいるからだ。外国人ならば低賃金でも構わないのだと、経営者たちは開き直る。そこにはアジア人労働者に対する差別意識もあるだろう。一方、発注主の大企業は、末端の工場で誰がどんな働き方を強いられていようが気にも留めない。問題が起きれば、労働者ごと切り捨てればよいのだ。
華やかなファッション業界も、最先端を謳う自動車、家電メーカーも、実直な「ものづくり」を連想させる建設業界や農林水産業も、いまや実習生をはじめとする外国人の労働力なくしては成り立たないのに、まるで初めからそれが存在していないかのように、とりすました表情を崩さない。
そして——私たち消費者は実習生がつくった服を「さすが国産品は丈夫」だと喜んで身に着け、実習生がつくった野菜や果物を「国産は安全」だとして口の中に放り込む。
こうした「外国人産の国産」が私たちの生活を支えているにもかかわらず、私たちは「つくり手」の顔も苦痛で歪んだ表情も想像することなく、今日という日常を生きる。
時給400円の縫製工場
こうしたことを自覚するためにも、私は定期的に岐阜県内のシェルターを訪ね、甄凱さんに実習職場の現状を聞くと同時に、実習生本人とも面談を重ねている。
この日(2022年3月)、シェルターには中国人、カンボジア人、ベトナム人など15名の外国人が保護されていた。全員が技能実習制度で来日した実習生だ。当然ながらそれぞれが「理由」を抱えて実習先企業から逃げてきた人々でもある。
例えば中国江蘇省出身の女性(45)。1年ほど前まで大手ファッションブランドの下請け縫製工場で働いていた。時給は400円。地域最賃を大きく下回る違法な賃金だ。さらに運の悪いことに突然、会社が倒産してしまった。未払い賃金の支払いを求めても「倒産して資力がない」ことを理由に拒まれる。
また、こうした場合は例外的に監理団体(実習生を国外から受け入れ、企業に振り分け、その後の監督・管理も担当する団体)の斡旋で他企業への転職が可能となるのだが、倒産から1年が経過しても彼女に新しい職場が提供されないままだ。
仕方なくシェルターで生活しながら、監理団体との交渉を重ねる甄凱さんからの報告を待つだけの毎日である。
「疲れた」と彼女は私に漏らした。
すでにシェルター生活も半年を超えた。中国へ帰ることも考えていないわけではない。だが、ここで帰国すれば、シェルターで過ごした時間が無駄になる。いや、そもそも日本に来たことじたいが間違いではなかったのか。そう思うと眠ることのできない夜もあるという。
日本へ遊びに来たわけではないのだ。しっかり稼いで、待っている家族を喜ばせたい。その思いだけを抱えて働いてきた。だが、待ち受けていたのは低賃金労働、そして会社の倒産である。しかも経営者も監理団体も、その責任を果たそうとしない。