日本に失望する外国人実習生たちの声
「日本がそんな国だと思わなかった。失望した」
これまで取材先で繰り返し聞かされてきた言葉を、この日も私は耳にすることとなる。
「ずっと日本人は誠実な人ばかりだと思っていた」
そう続けたのは、別の中国人の女性実習生(43)だ。
「もともと日本に憧れていました。少なくとも私の周囲では、日本を悪く言う人はいなかった」
豊かな国。清潔な国。法律が整った国。人々は穏やかで親切で、真面目な人ばかり。中国人に向けられることの多い「反日」なる陳腐なレッテルとは遠いところで彼女は日本を見ていた。
だが、就労先の縫製工場で「日本のイメージが覆された」。
時給400円。しかも朝7時から夜10時まで、ほぼ休みなく働かされた。残業に関しては時給制ではなく出来高制。何もかも当初の約束と違っていた。そのうち、会社に労働基準監督署の立ち入り調査が入り、労基法違反が指摘された。労基署は是正勧告を出したが、その直後、会社は破産を申し立て、実習生は待遇改善されることなく放り出されてしまった。最低賃金法に照らし合わせた未払い賃金は約320万円にものぼる。
「これ、見てください」
彼女が私に差し出したのは、その名を知らぬ者などいないであろうアイドルグループの写真だった。ファンなのかと私が問うと、彼女は首を横に振った。
「この人たちが着ている服、私たちがつくったんです」
縫製工場は大手アパレルから依頼され、芸能人のステージ衣装の縫製を請け負っていた。
写真の中で、アイドルは優しく微笑んでいた。身に着けている衣装が、時給400円の実習生たちによって縫製されたものだと考えたこともないだろう。それは私たちも同じだ。
私たちはつくり手の顔など想像しない。
縫製工場の社長は破産を理由に交渉から逃げ回り、行くあてのない彼女はシェルターで解決の日を待つばかりである。
夢だった日本は、いま、彼女にとって悪夢でしかない。
このシェルターで、私は少し前にカンボジア人女性の実習生(33)にも話を聞いている。印象に残っているのは、彼女が「富士山を見たい」と何度も口にしたことだった。
彼女にとって富士山とは、日本そのものだった。
「カンボジアにいた頃、テレビやネットの写真で何度も見た。あの美しい山のある国で働くことができると思っただけで気持ちが弾んだ」
日本に行けば必ず目にすることのできるものだと思っていた。だが、岐阜県内の工場で働くことになった彼女は結局、富士山を1度も目にすることなくシェルターで鬱屈した毎日を過ごしていた。