時代劇のロケ地になった場所を実際に巡り、写真と解説文とで紹介した『時代劇聖地巡礼』(ミシマ社)の続編が刊行されることになり、ただいま取材の真っ盛りだ。
一巻目は主に京都の神社仏閣が中心だったが、今回は京都周辺の「野面(のづら)」――つまり、山、川、海、滝、湖、池、野原、田畑――などが多い。既に琵琶湖周辺や甲賀に行っており、今この原稿を書いている翌日には奈良を取材する。
中でも楽しみなのは飛火野。今回取り上げる『宮本武蔵 般若坂の決斗』で、そのクライマックスたる般若坂のシーンが撮影された「聖地」だ。
飛火野は春日大社の境内に位置する広大な草原で、全体がなだらかな斜面になっている。ここで、宮本武蔵(中村錦之助)、胤舜(黒川弥太郎)率いる宝蔵院の僧兵軍団、そして荒くれ野武士勢による三つ巴の大立ち回りが繰り広げられた。普通の観光で行く分には「のんびりした草原」なのだが「時代劇の聖地」という切り口を入れると途端に「血沸き肉躍る戦場」に見えてくる。そして、錦之助が躍動しながら刀を振るった、その同じ場に立つこともできる。これぞ「聖地巡礼」の醍醐味。
ただ、撮影ポイントを完全に特定できたわけではない。
建物そのものを撮っている場合は現地に行くと「あ、ここだ」とすぐに分かる。だが、野面だとそうはいかない。
撮影所のスタッフさんたちに大まかな場所を聞いていたとしても、実際に行ってみて「ズバリ」の場所にたどり着けるとは限らないし、工事や災害で地形が変わっていることもある。実際、そのために一巻目では現地近くに行きながらも特定できずに止む無く撤退することもあった。
続編は野面が中心になるため、もうそれは許されない。ただ、ありがたいことに最近は地図アプリに航空写真やストリートビューの機能があり、作品映像と見比べながらこれを駆使すると、それなりに絞り込むことができるのだ。
飛火野も、そうだった。作品映像を観ると、遠景ショットの時に遠くに若草山が映っているため、これを目印に地図アプリを巡ると、なんとストリートビューにほぼ同じ景色が広がっていたのだ。
無事に筆者はズバリの聖地にたどり着き、武蔵と同じアングルで撮ることはできるのか。それは、来年発売予定の続編を読んでのお楽しみ。
また、なかなか旅に出られない方は、作品を観た後で我が家にいながら「ストリートビュー聖地巡礼」してみるのも一興かもしれない。ちなみに般若坂のロケ地は、春日大社と奈良公園を隔てるバス通りを、飛火野方向を見ながら進むと、見つけることができる。