アニメ映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』が公開中だ。この作品、チャンバラとしてかなり楽しめる。
モビルスーツ同士の激闘が終盤に展開されるのだが、この時、双方ともに銃器はほとんど使わず、剣や斧で戦う。これが、見事な殺陣だった。
しかも、ガンダムが戦場に現れる時は、煽り気味のアングルで撮っており、まさに「ヒーロー登場!」という王道演出。大いに興奮できた。
「スクリーン・オンライン」でのインタビューを読むと、安彦良和監督は「任侠映画の主人公という見せ方を意識」したという。それは「“待ってました!”という場面で颯爽と登場し、爽やかに解決する」という主人公像。
ここで言う「任侠映画」とは高倉健の「昭和残侠伝」シリーズを指していると思われる。一連のシリーズで高倉健の演じるヤクザ・花田秀次郎(作品によって役名が変わることも)は、「颯爽と」敵地に乗り込み、豪快に斬り伏せていく。高倉健がドスを抜く時、当時の劇場では実際に観客から「待ってました!」と掛け声もかかったという。
そして安彦自身は言及していないが、殺陣の見せ方も高倉健への意識が見受けられた。
シリーズ第三作『一匹狼』で高倉健の殺陣のスタイルは確立されるので、今回はそれを取り上げる。
『ククルス・ドアン』の終盤、ザクは斧を下段に構えて敵と対峙する。その際、刃を相手に向けず、手首を返して後ろに向ける。これは、敵が迫ってきた時にカウンターで斬り上げる、迎撃用の構えだ。実際、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』では、そう使われている。
が、このザクはそうしない。下段から大きく振りかぶり、こちらから敵に襲いかかるのだ。実戦で考えると効率の悪い動きだが、実はこれが、高倉健の定番なのである。
『一匹狼』のラスト、高倉健は浜辺で悪党と決闘する。その際、やはり手首を返して切っ先を後ろに向け、そこから振りかぶって斬りかかるのだ。
高倉健は堂々たる長身の持ち主だ。その見事な体躯を活かすため、武器はいつも長ドスにし、斬る際もできるだけ上から思い切り斬り下ろすようにしていた。そうすることで、ダイナミックな迫力が殺陣に生まれるからだ。切っ先を後ろに向けた体勢から振りかぶると、長ドスの描く軌道はさらに大きくなり、一段とダイナミックな動きになる。
『ククルス・ドアン』のザクも、まさにそうだった。
今の日本映画では、そうしたヒーローには出会えない。ぜひ劇場でガンダムやザクに――心の中で――「待ってました!」と声をかけてほしい。