1960年(76分)/ディメンション/4180円(税込)

 前回述べた『宮本武蔵 般若坂の決斗』の決戦シーンが撮影されたロケ地には、無事にたどり着くことができた。

 遠景シーンとほぼ同じアングルを見つけた時は、大いに興奮した。ただ、一つだけ大きな問題があった。それは、気温。六月末、あの酷暑の中での取材だったのだ。しかも、当地は大草原。日陰はない。

 それでも、草原は照り返しがない分、まだマシといえる。その後、平城宮跡に行ったのだが、これが大変だった。広大なスペースに建物が点在しているため、かなりの距離を歩く必要がある。しかも、時間は午後二時前後。地面は舗装されている。

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 灼熱の地獄――そうとしか表現できない空間だった。我々取材班と常駐しているガイドの方々の他は、そこには誰もいなかった。

 そこで今回は『狂熱の季節』を取り上げる。都会を舞台にした現代の青春映画なので、平城宮跡とは何も関連はない。強烈な炎天下を歩きながら、ふと、このタイトルが頭に浮かんだのである。

 本作が描くのは、ひたすら無軌道な若者たちの姿。そして、その無軌道へと突き動かすのが「暑さ」だった。

 冒頭から、タイトルに偽り無し。少年鑑別所での暴力の日々が狂騒的なジャズの調べに乗って映し出されるタイトルバックに始まり、「狂熱」と呼ぶにふさわしいギラギラした暑さが、白黒画面からでも伝わるほどの照りつける太陽光線とともに、映し出されていく。

 鑑別所から出所したての若者・明(川地民夫)と勝(郷鍈治)が車を盗むところから物語は始まる。二人は外国人相手に売春をしているユキ(千代侑子)と合流。ただひたすら何かに苛立ちながら、暑さのためにヤケクソになったかのように、本能のおもむくまま笑い、叫び、そして空しいセックスと暴力へ突っ走る。

 一切の理性もモラルも通用せず、世の中の全てにムカつきながら嘲笑いまくる若者を演じる川地民夫が強烈だ。葛藤も情念も捨て去った明を、異様なまでの軽さで演じており、その姿はもはや狂気の域といえるものがあった。

 明はその獣性をもって、新聞記者(長門裕之)と前衛画家(松本典子)のカップルの虚飾を引き剥がしていく。知性とモラルのために思い悩む男女の深刻さに対して、二人のそんな様を嘲笑い続ける明を演じる川地の対極的なまでの軽快さには、どこかヒロイックな痛快感すら漂う。

 劇中と同様のうだるような暑さの中で観ていると、明の言動に変に共感できてしまう恐れもあるから、要注意。涼しい環境で、あくまで他人事として接していただきたい。

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