1970年(85分)/日活/1980円(税込)

 夏といえば、怪談だ。日本映画でも、古くから怪談を題材にした作品は、この時期に多く作られてきた。

 何らかのエゴや傲慢さを抱えた人物が、その欲望のために善意の弱者を苛み、最終的には死に追いやる。無念を抱えて成仏できない被害者は亡霊と化し、加害者に霊力をもって復讐を果たす。たいていは、以上のようなフォーマットで構成されており、因果応報の物語の中に人間の業の深さが映し出されていた。

 そうした中にも、風変りな映画はある。今回取り上げる『怪談昇り竜』は、その最たるもの。そもそも、めでたいニュアンスのある「昇り竜」と「怪談」との組み合わせからして、違和感が凄い。

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 舞台は浅草。立花一家の二代目・明美(梶芽衣子)は対立する組長を襲撃した罪で服役。出所すると、浅草では愚連隊が暴れ回り、立花一家は圧されていた。その背後には、立花一家の庭場を狙う組織の存在が。黙って耐えてきた明美だが、それが限界に達した時、再びドスを抜き、殴り込みへ。

 ――これだけ読むと、オーソドックスな任侠映画のフォーマットでしかなく、怪談の要素はどこにもない。

 それもそのはずで、本作は扇ひろ子が女侠客を演じた「昇り竜」シリーズの一本として企画されており、扇の降板により梶が急きょ主役に抜擢。そこに強引に怪談の要素が付け加えられ、このようなタイトルになったのだった。

 冒頭、乱闘に巻き込まれて明美に両目を斬られた女性がいて、その目から流れた血を黒猫が舐める。それ以来、明美は黒猫の悪夢にうなされていた。子分たちは猫に憑かれたり、奇妙な死に方をする。

 立花一家の子分たちは皆、背中に昇り竜の刺青を入れているのだが、殺される度にそれが剥ぎ取られていた。こんな形でタイトルの違和感を回収するとは――、さすがは石井輝男監督である。

 さらに、化け猫の化身のような存在として、石井の盟友でもある暗黒舞踏の土方巽が登場。見世物小屋を舞台に、アバンギャルドなダンスを物語そっちのけで繰り広げる。この見世物小屋の異様な空間が、本作におどろおどろしさをもたらしていた。

 それでいて、梶はいつも凜としているし、内田良平、佐藤允、砂塚秀夫、安部徹といった石井組お馴染みの面々の芝居は陽性そのもの。基本的にはコミカルさの中で話は展開している。特に上半身は洋装、下半身はふんどし一丁という内田の出で立ちは強烈だ。

 任侠と怪談と前衛とコメディを全てぶち込んだカオス。これを手堅い娯楽映画として破綻なくまとめ上げるのだから、石井輝男は恐ろしい。

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