一九七〇年代の東映作品の魅力を一言で表すとすると「猥雑」に尽きるだろう。破れかぶれとすらいえるカオスに満ちたエネルギーの放つ、泥臭い熱気に魅了されてきた。
今回取り上げる『喜劇 特出しヒモ天国』もまた、七〇年代の東映だからこその猥雑さにあふれた作品だ。
あまりにカオスなので、作品の概要を文章で表現するのはなかなか難しい。
舞台は京都のストリップ劇場で、序盤は男たちがそれぞれにストリッパーたちのヒモになっていくまでの過程が描かれる。
車のセールスマンの昭平(山城新伍)は社長(北村英三)に車代の請求に劇場を訪れたはずが、あれよあれよという間にジーン(池玲子)のヒモに。取り締まる側にいた大西刑事(川谷拓三)は、客席に潜入していたところを客たちに見つかりステージに上げられ、ついその気になってしまったところに警官隊が乱入。警察をクビになり、ローズ(芹明香)のヒモに。他にも、性転換したストリッパー(カルーセル麻紀)に惚れて職業を転々とした挙句にヒモに収まった元会社員(川地民夫)に、ベテランのヒモとしてストリッパーに踊りのアドバイスをしたり子守をしたりする老人(藤原釜足)――。
男たちの状況が一気に変化していくため、序盤の展開はとにかく怒濤。大西がヤケ酒をあおる場面では屋台の客として深作欣二に渡瀬恒彦も参戦して大乱闘。芹明香の何をしでかすか全く読めない危険な感じも加わり、当時の東映らしい、下世話で賑々しい喧騒が繰り広げられていた。
が、中盤になって、それは一変する。物語展開はほとんどなくなり、ストリッパーやヒモたちの生態が映し出されていくのだ。その様は一見すると賑やかなのだが、裏側からはやり場のない哀しみが漂うようになる。
本作を撮ったのは、松竹出身の森﨑東。社会の底辺で生きるしかない人々をペーソス込めて描くことを得意としてきた監督だ。本作でも、それは変わらない。ストリップ劇場の人間模様を、そこでしか生きられない人間たちに対する哀切とともに見つめている。そのため、表向きはどこまでも賑やかなのに、その喧騒はたまらない寂寥感に包まれる。
そのペーソスは、ラストシーンでの警察車両に乗せられたローズの眼差し、そして劇場裏にいる謎の坊主(殿山泰司)による「生きてる間は助からん。あの世に行っても助からん。未来永劫、助かりゃせんのじゃ」という説法へと収斂されていく。
森﨑のペーソスが東映ならではの猥雑さと見事に融合、素敵なカオスを形成していた。