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連載春日太一の木曜邦画劇場

今度は普通の人情喜劇! 若山の円熟味を味わえる――春日太一の木曜邦画劇場

『愉快な極道』

2020/05/05
1976年作品(88分)/東映/AmazonPrime配信

 配信で気軽に観られる映画として、若山富三郎が暴れん坊の大阪ヤクザ・島村を演じる「極道」シリーズをここ二週にわたり紹介してきた。

 先々週の『帰って来た極道』が現代の大阪が舞台だと思ったら、先週の『兵隊極道』は戦時中の中国が舞台と、時空を超えて展開されていて、それに対して筆者は前回「島村が山城新伍とそこにいれば、それはもう『極道』なのだ」と言い切っている。が、実はそれは誤りだ。このシリーズの自由さは、そんな最低限の枠組すら飛び越えてしまう。

 そのことを痛感できるのが、今回取り上げる『愉快な極道』である。「愉快な」という、本来なら「極道」に最も似つかわしくない形容詞さえ自然に組み合わさってしまうところが、このシリーズの凄まじいところなのだが、驚かされるポイントは他にある。

 というのも、本作の舞台は大阪ではなく京都だし、山城新伍は出てこない。そして何より若山の演じる主人公は「島村」でもないし、ヤクザですらないのである。つまり「極道」シリーズの成立要件を一つとして満たしていない。

 前作から時を置いて製作された作品とはいえ、無茶苦茶だ。それでもなんだか許せてしまう大らかな自由さが、このシリーズの魅力といえる。

 舞台は現代の京都。若山扮するタクシー運転手の岩次郎は、冒頭から嵐山で修学旅行の女子高生たちを乗せて映画村を案内したり、京都駅でヤクザに絡まれて困っている医者の由利子(三田佳子)を助けてドギマギしたり――と、お人好しの人情家ぶりを見せ、島村とは異なるキャラクターであることに気づかされる。

 その後の展開も由利子とのほのかなラブストーリー、手塩にかけて育てた娘の結婚話――と、徹底して人情喜劇。これまでのシリーズのような野放図なバイオレンスを期待すると、かなり面食らう。チンピラの政吉(左とん平)を説得して足を洗わせ自分と同じタクシー運転手にさせるなど、島村だったらとうてい考えられないことだ。

「極道」シリーズがバリバリに作られていた一九七〇年前後、若山は野放図な暴れん坊役を得意としていた。が、七〇年代後半は映画『悪魔の手毬唄』の老警部やドラマ『事件』の弁護士役などで人情味あふれる演技をみせ、役者としての円熟味を増していた。そうした芝居の変化が反映されたかのようでもある。

 考えてみると、本作の岩次郎はミナミの元ヤクザという設定で、娘を養うために堅気になっている。まさに暴れん坊役者から人情役者へ転身した若山にピッタリな役柄。その変貌を味わえる作品だ。

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