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ホテルでマジックを披露、客が悲鳴を上げて…

――やめちゃったんですか。

マリック とにかく早く名前を売りたかったですから。事務所に入って、仕事をもらうけど、小学校の校庭に作ったステージとかお祭りのやぐらの上でやるようなものばかりで。ショップをやっている間に、マジシャンがショーをやれるようなキャバレーやナイトクラブはなくなっていたんですね。

 これはダメだと思って、自分で仕事場を探しました。品川のホテルパシフィック東京の最上階にあったナイトクラブに「ノーギャラでもいいから、マジックをやらせてもらえませんか」と交渉しましてね。最初は断られたけど、しつこく頼んだら「タダならいいか」と、ショータイムの後の10分をもらえた。

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 バンドやダンサーたちが下がって、私が「こんばんは」と出ていくんだけど、お客さんはみんな、夜景を見ちゃっている。仕方がないので「声をかけていただければ、目の前でマジックをお見せしますので」と言って下がるのですが、やっぱりいるんですよ。「見せてほしい」という物好きなお客さんが。

©文藝春秋

――超クロースアップなスタイルですね。

マリック 私が手ぶらで現れるから、お客さんは「あれ?」と不思議に思う。「ちょっとよろしいですか」と指輪を借りて空中に浮かせると、お客さんは「ワーッ」とか「キャーッ」とか悲鳴を上げるんです。するとほかのお客さんも何が起きているのか気になって、テーブルに呼んでくれるようになる。至近距離で、しかもお客さんのタネも仕掛もない持ち物を使うから驚かれるんですよ。

 いまでこそ普通にマジシャンがやっている「テーブルホッピング」というスタイルが、そこで完成した感じですね。

 そうしているうちに、全国のホテルオークラを回ったり、ほかのホテルに出たりするようになって。ある時、大阪のANAホテルでマジックを披露していたら、テレビの構成作家から「深夜番組に出てみない?」と声を掛けられたんですよ。で、さらに表舞台に出ていくようになりました。

写真撮影=三宅史郎/文藝春秋

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