ユリ・ゲラーを追いかけてアメリカへ
――まず、どう動かれました。
マリック ユリ・ゲラーの居場所を聞いたら、ニューヨークのホテルで講演会をやると。生で見たかったから、すぐに飛んでいったらロスに行った後だった。ホテルのロビーでどうしようかと思っていたら、スーツケースの鍵が見つからずに開けられなくて困っている観光客がいたんですよ。そこへ白いヒゲの男が現れて、「ちょっと貸してみなさい」とスーツケースを持って少しだけ姿を消して、戻ってきたら鍵が開いてる。
その方はジ・アメージング・ランディという、ユリ・ゲラーをインチキだと糾弾していた有名マジシャンで。ランディさんはハリー・フーディーニのような脱出マジックを得意にしていたから、スーツケースのピッキングなんて朝飯前なんですよ。それで「ひょっとして、あのランディさん?」と声を掛けたら、「おまえ、わざわざユリ・ゲラーに会いに日本から来たのか」と驚いて。一緒にロスに移動して、そこから親しくなりました。
――ランディさんの登場の仕方は、実にマジシャン的ですね。
マリック ロスに移ってから同じホリデイ・インに泊まって、「こういうタイプのスプーンは、ここが弱くて曲がりやすいんだ」とかありとあらゆるスプーン曲げの方法を教えてもらいました。で、ランディさんに「テレビを見ていた人は、どうしてスプーンを曲げられたのでしょう?」とたずねたら「それは私もわからない」と。スプーンを曲げること自体はマジックだから、私がスプーン曲げを見せたところでマジックだと言われるだけ、という話もしてね。
「また会おう」と言ってランディさんと別れた後、よく考えたら子供がスプーンを曲げるところを誰も見ていないことに気づきました。子供が親を驚かせたり、喜ばせたりしたいから「曲がった」と言っているだけだという声もありましたし。そこでスプーンを曲げる一部始終をカメラで撮ったら、ユリ・ゲラーとは一線を画せるんじゃないかって。
なぜスプーンは曲がったのか
――マリックさんもグニャグニャとスプーンを曲げられていましたが、あのタネというのは。
マリック (棚からスプーンを取り出して)これ、しっかりと硬いでしょう。これをライブの会場でお客さん全員に「硬くて曲がりませんよね?」と言って渡すと「曲げられない」と思い込む。でも、スプーンにはその形状による“弱点”があるから、今度は「柔らかくなってきた」と言いながらそこへ指を持っていくように誘導して、脳に錯覚を起こさせるんです。
思い込み、錯覚を使う。大人は「これは硬くて曲がらない」という固定概念があるから曲げられないけど、子供にはそんなものないので。だから、ユリ・ゲラーの真似をしていたら、スプーンが曲がったというわけです。