棋士としてはもちろん、詰将棋界でも第一人者である谷川十七世名人が、長年にわたり、「文藝春秋」誌上に連載されている作品を厳選し、今回、刊行されたのが『谷川浩司 精選詰将棋――「光速流」からの挑戦状』(文藝春秋刊)です。
私もいくつかの雑誌に詰将棋を発表していますが、「詰将棋パラダイス」などの専門誌以外では10分で初段くらいの方が解けるくらいの難易度を目安にしています。ところが本書に収録されている作品には、一切の妥協はありません。専門誌に発表しても高評価が確実な作品ばかりです。今回、改めて全作品を解きましたが、とくに好きな作品を紹介させていただきます。
まずは第28番。
11手詰としては持駒が5枚と多めですが、初手は軸になる角打ちからスタートしたいところです。紛れもギリギリ逃れますがこの配置で余詰がないのはちょっと信じられません。5四とが金でも余詰があります。最後は初手に打った角が目いっぱいに働いて捕まります。難解ではありませんが解後感のよさが光ります。
馬の潜在能力を活かして玉を追い込んでいく手順が巧妙
次に第91番。
初形を見て最終形がどうなるのか詰みそうな形が浮かんできません。5八馬が左右ににらみを利かしており、馬の潜在能力を活かして玉を追い込んでいく手順が巧妙です。
打歩詰をどう打開するか
作る側の目線で見ると、4手短かった発表図と比較したときに守備陣で増えたのは6四との1枚のみ。1枚の配置で強力な余詰筋を封じ込め、変化を割り切らせるのに相当な推敲が必要だったのは間違いありません。筋を掴ませない効果も十分で完成品と言えます。