この度、十七世名人を襲位された谷川浩司先生の詰将棋を初めて拝見したのは、今から30年以上前の「詰将棋パラダイス」誌上でのことでした。私は当時、まだ奨励会にも入っていない頃だったので解けるはずもなく、眺めているというのが正しかったと思います。少なくとも奨励会の有段者になるまでは、全く歯が立たなかった記憶があります。
200年以上途絶えてきた永世名人の作品集
私が8年前(2014年)に関西所属へ移籍してからは、谷川先生と詰将棋の話をさせていただく機会が増えました。詰将棋作家同士のマニアックな会話は、関西では谷川先生や浦野真彦先生(八段)、斎藤慎太郎八段や船江恒平六段など、ごく少数の方としかできませんが、短い時間でも貴重で楽しい時間です。最近だと、藤井聡太五冠とも、詰将棋の話をしたことがあります。
谷川先生は、1か月に複数の作品を発表されることも多く、作品を量産するペースはおそらく現役棋士で一番ではないかと思います。ちなみに私が専門誌に発表するのは年間1作か2作。これは遅すぎで反省です。
谷川十七世名人の詰将棋は、作品集『月下推敲』(毎日コミュニケーションズ刊)を抜きに語ることはできません。約200年途絶えてきた永世名人の作品集であり、収録されている作品は19手詰以上の中編が中心で、傑作揃いなのは言うまでもありません。推敲が行き届いているのはもちろんですが、どの作品も手順が華麗で、駒が持つ性能を最大限に引き出されています。変化に隠れている重厚な手順を丁寧に読んでいかないと正解に辿り着けないので、解答者は膨大な読みの量を要求されます。
専門誌に発表しても高評価が確実な作品ばかり
詰将棋界の最高峰である「看寿賞」特別賞を受賞された作品は、初形が玉と歩のみ、持駒は金銀8枚という特殊な条件ですが、序盤で5一に打った銀が不成を繰り返しながら2四まで移動するという美しい手順です。