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中学生が家族のケアに1日4時間…「困っている」と言えない“ヤングケアラー”たちの実態

著者は語る 『ヤングケアラーってなんだろう』(澁谷智子 著)

『ヤングケアラーってなんだろう』(澁谷智子 著)ちくまプリマー新書

 学校に遅刻しがちで、休みも多い。宿題をやってこられない。授業中に眠そうにしている。もしかしたらその生徒は中学生の17人に1人の割合でいる「ヤングケアラー」かもしれない。

 ケアを必要とする家族がいて、本来大人がするような家事や家族の世話を担う18歳未満の子どもや若者。ヤングケアラーと呼ばれる彼らは、どのような生活を送り、何に悩んでいるのか。この分野の第一人者である澁谷智子さんが上梓した『ヤングケアラーってなんだろう』には近年行われた大規模調査の結果や、若年層によるケアの実態が詳しく記されている。

「2020年から2021年にかけて、中高生を対象にした厚生労働省の実態調査が行われました。これは、全国の中学高校の教員と中高生に直接聞くという画期的なものでした。また自治体レベルでは、2020年の夏に埼玉県が高校2年生を対象に初めて全数調査を行い、日本における傾向がかなり分かってきました」

 厚生労働省の調査では、家族のケアをしている中学生が平日ケアに要する時間は平均で4時間、という衝撃的な結果も出た。これほど負担が重いと、当然学校生活にも支障が出てくるが、それを周囲に訴える子どもは少ないという。

「『困っていることは?』と訊かれたら、『特にないです』ってなると思うんですよね。それによって変な干渉を受けるのも嫌だし、他の子と比べて勉強とか部活で力を出せていないことの言い訳に家族を使うのか、とかいろいろ考えてしまう。良かれと思って何かを押し付けるのは絶対に良くなくて、『もっと時間があったらこうしてみたい、っていうのはある?』『どういうサポートが必要?』っていう風に丁寧に寄り添って聞いていくしかない。大人の声かけが変わるというのはすごく大事なことだと思います」

 本書の第3章では元ヤングケアラーで24歳の女性、髙橋唯さんの経験が本人の言葉で綴られている。高次脳機能障害の母親を持つ唯さんは、幼い頃から家事を担当していただけでなく、歩行が不安定で記憶にも障害がある母親を常に気にかけている生活だった。

「唯さんとは、世田谷区でヤングケアラーの講演をしたときに知り合いました。インタビューでお話を伺っても、大学のシンポジウムで講演してもらってもすごくお上手で、表現に関心がある方なんだなと感じていました。今回、ちくまプリマー新書から本を出すにあたって、中高生の方も読むかもしれないと思ったら、私がヤングケアラーの経験を聞き書きするよりも、世代も感覚も近い唯さんに書いてもらったほうがいいんじゃないかという気持ちが強くなってしまって。彼女に執筆をお願いしたことで、強く伝える力のある章になったと思います」

澁谷智子さん

 言葉の力を実感することが多かったという澁谷さんは「ヤングケアラーという言葉に『大変そう』『かわいそう』などのマイナスイメージをつけてしまうのは勿体ない」と語る。

「確かに一つの状況を表してはいるけれど、そのなかで自分なりの人生を切り拓こうとしていて、それを応援したいと思っている人たちがいっぱいいて……ということを感じられる言葉にしたいな、と強く思います。はじめは『妙な言葉で括られたくない』と警戒していた人でも、その言葉を通じてつながった世界が良いものだと感じれば、愛着をもって使うようになることもある。ヤングケアラーという言葉が、そんな風に使われていくことを目指したいです」

しぶやともこ/1974年生まれ。成蹊大学文学部現代社会学科教授。専門は社会学・比較文化研究。著書に『ヤングケアラー――介護を担う子ども・若者の現実』『コーダの世界――手話の文化と声の文化』、編著に『ヤングケアラー わたしの語り』など。

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