7月19日、都内で記者会見に臨んだフィギュアスケーター・羽生結弦(27)は、注目されていた去就について「プロのアスリートとしてスケートを続けていくと決意」したと語った。これからは競技会に出場しないが、プロスケーターとして4回転半ジャンプへの挑戦を続けていくという。

 2014年ソチ五輪、2018年平昌五輪と男子シングルで66年ぶりとなる2連覇を達成した羽生。彼の少年時代を取材した「週刊文春」の特集記事を特別に公開する。(初出:週刊文春 2018年3月1日号 年齢・肩書き等は公開時のまま)

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「漫画の主人公にしてはできすぎ」。自らもこう語るように、見事に期待に応えてみせた羽生結弦。66年ぶりの男子フィギュア五輪連覇を成し遂げた精神力は、どうやって育まれたのか。コーチや親族の証言で浮かび上がる、こうしてユヅは羽生結弦になった――。

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「勝ったぁー!」

 4分30秒のフリーの演技を終えると、羽生結弦はリンクをウィニングランのように滑りながら何度も叫んでいた。

 右足首のケガから3カ月ぶりのぶっつけ本番で臨んだ五輪での金メダルを本人はこう表現した。

「漫画の主人公にしては、できすぎなくらい、設定がいろいろあった」

 連覇をよりドラマチックにしたのは、他ならぬ羽生自身の言葉だった。

フリー終盤、入魂の演技

自らの美学を抑えて、戦略的に演技した

 試合前の会見では、「クリーンに滑れば絶対に勝てる自信がある」と宣言し、言葉通りショートプログラムを完璧に滑りきると、「僕は五輪を知っている。元オリンピックチャンピオンだから」と胸を張った。

 フリーでも強さを見せつけ、連覇を果たすと、

「右足が頑張ってくれた。右足に感謝しかない。今回は何より自分に勝てた」

 一方で、熱い言葉とは対照的に、その戦いぶりは冷静だった。常に難しい技に挑もうとする自らの美学を抑えて、戦略的に演技した。

 ショート、フリーともに右足に負荷の大きい4回転ループは封印し、ソチ五輪と同じトーループとサルコーの2種類に絞ったのだ。

ブライアン・オーサー・コーチとのコンビで連覇

 自身も右足首靱帯損傷の経験がある元五輪選手の村主章枝氏は語る。

「ケガ明けの状況で、あれもこれもじゃなく、自分がどの事柄に集中すべきかを考え抜いたプログラム構成が素晴らしかったと思います」

 自らの言葉で自身と周囲を鼓舞し、自らに陶酔し、脚本・演出・主演の復活劇を披露して見せた羽生。その強さはどこから生まれたのだろうか。