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参議院を制するものは自民党を制する

 現に首相動静を見れば、安倍派幹部の萩生田光一経産相と約1時間も話し込んだり、自民党の旧石破派の赤沢亮正、山下貴司氏らと会食するなど岸田首相の方がいち早く党内対策に着手した可能性がある。「岸田氏の頭の中は人事のことでいっぱい」という側近の証言もあります。

 そこで無視できないのが参議院の動向でしょう。参議院というのは、自民党の派閥にとっては非常に重要な存在なんです。一般には衆議院のカーボンコピーだとか、参議院不要論が起こることはありますが、衆参ねじれ国会が何度も首相交代を誘発した事実は参議院の重さを証明しています。

 1993年に自民党が下野したときを思い出します。衆議院で小沢一郎さんが党を割って、細川護熙さんを担いで天下を獲った。しかし村山富市政権を経て、あっという間に橋本龍太郎さんの自民党政権が復活しました。その原動力はなんだったのか。ひとえに参議院の存在だったと思います。ここを青木幹雄さんががっちり押さえていた。小沢さん主導の自民党分裂劇の際も、参議院から小沢さんについていったのは8人にすぎなかったんです。

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 あれから30年経ちましたが、青木さんはいまも参議院自民党に大きな影響力を残しています。「参議院を制するものは自民党を制する」。これは鉄則です。任期が6年、しかも3年ごとに半数の改選。この変わりづらさというのは人数を重視する派閥にとっては大変大きな資産です。安倍派にとっては、参議院の派閥所属議員をどう繋ぎとめるかは極めて大きな課題になってくるでしょう。

Ⓒ文藝春秋 撮影・松本輝一

安倍氏がこだわった「政権維持」の功罪

 安倍氏ほどその業績をめぐって評価が分かれる政治家はいないでしょう。議論の定着していない現状ではっきり言えるとすれば、日本の政治に長期安定政権をもたらしたこと、これは間違いなく安倍さんの功績です。平成に入ってからは小泉純一郎さん以降、1年ごとに総理大臣がコロコロ変わるような不安定な時代に終止符を打ったことは評価されてもいいと思います。

 実際、安倍さんが2度目に総理大臣の座に就いた際、最もこだわったことは政権維持そのものでした。有力な後継者を作らない、党内のライバル――これは石破さんですね――は徹底的に潰す、政権の将来を脅かす危険な芽は早々に摘むということにかけては極めて冷酷でした。それから、毎年のように実施した国政選挙。7年8カ月の間に衆参合わせて6回の選挙、その全てで勝利を収めました。

 野党はたまったもんじゃなかった。ボクシングにたとえるなら、ようやくゴングが鳴ってコーナーの椅子に座ったと思ったら、間髪入れずセコンドから無理矢理マウスピースをねじこまれてファイティングポーズをとらされたようなものです。政策や選挙準備の蓄積なんてできないし、政権交代なんて夢のまた夢。この辺りの手管は凄まじかったです。安倍氏は「毎日、衆院解散のことを考えていた」と語っていました。それほど権力維持に執着していました。