福岡県警には気の毒な面もあった。
先にも触れたが、福岡県では指定暴力団・道仁会(久留米市)と、同会の跡目相続をめぐり分裂した九州誠道会(その後、浪川会に改称、大牟田市)が2006年5月から県内外で激しい抗争事件を繰り広げた。夕方の住宅街で射殺事件を起こしたり、事務所に手榴弾を投げ込んだりし、2013年6月時点で双方の死者は14人、負傷者は13人に上っていた。
暴力団同士の争いとはいえ、市民を巻き込む恐れがあった。県警は、工藤會事件と同時に、道仁会・九州誠道会抗争についても取締りを強化する二正面作戦を強いられた。
ついに県警が本気を出した
県警は2010年に暴力団対策部(暴対部)を新設。暴力団取締りを担ってきた捜査四課を、主に道仁会抗争を取締まる「暴力団犯罪捜査課」(暴捜課)と、工藤會事件専従の「北九州地区暴力団犯罪捜査課」(北暴課)に分課し取締りを強化した。
工藤會対策の最前線である北暴課は、北九州市にある県警の出先、北九州市警察部の中にある。北暴課の歴史は、県警の工藤會対策の歴史そのものである。
そもそもは、2003年3月、刑事部捜査四課に「北九州地区暴力団犯罪対策室」を設置したのが始まり。その後、2006年4月、名称を「北九州地区暴力団総合対策現地本部」に変えたうえ、工藤會の資金源を断つ目的で捜査二課の1個班、捜査三課、生活安全課、少年課の課員らを北九州地区に常駐させ、被害者保護対策に当たる警察官を指名するなどして工藤會対策に当たった。
さらに、2009年1月、小倉北署に工藤會撲滅推進室を設置したほか、4月には、「現地本部」の陣容を強化。刑事部捜査四課に「北九州地区暴力団犯罪特別捜査室」を設置。内偵特捜班や、発砲特捜班などを創設した経緯がある。
しかし、北暴課発足当初は目に見える成果は上がらなかった。やはり二正面作戦は大きな負担だった。県警は2012年の改正暴力団対策法に基づき、工藤會を「特定危険指定暴力団」に、道仁会と九州誠道会を「特定抗争指定暴力団」に指定した。組員らは集合、事務所への立ち入りが禁止され道仁会と九州誠道会は抗争継続が困難になり、2013年6月、九州誠道会が看板を外し、道仁会が「抗争終結」を宣言した。
これによって県警はようやく、工藤會に対して全力を注げるようになったのだった。