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うつ病、自殺、介護殺人……家族も本人も不幸にならない認知症治療

親が認知症かもしれないと思ったら──高瀬義昌医師インタビュー ♯3

2017/12/29
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「おかげでいい時間を過ごすことができました」

──徘徊は介護する家族を悩ませる周辺症状の一つですね。以前、愛知県大府市で要介護4の91歳の認知症の男性が線路に立ち入り、列車にはねられて亡くなったことがありました。JR東海が死亡した男性の家族に対して720万円の損害賠償を求める訴訟を起こしていましたが、昨年3月に最高裁で「家族に責任なし」という判決が出たのも記憶に新しいところです。

 この事件は奥さんがほんの数分ウトウトしたときに外出してしまったという悲しいケースでした。今や、認知症は誰にとっても他人事ではなくなりましたね。

高瀬 自分の親がもしかして認知症? と思うと、最初はすごく不安になったり、暗い気持ちになったりするよね。いろいろ悲惨なケースが報道されていますからそれも当然のことだと思うけど、認知症になったからすべてが終わりじゃない。今、ボクが訪問診療している認知症の患者さんのうち、だいたい年間20人くらいが自宅で亡くなられています。ずっと診ていた患者さんが亡くなったときに、「おかげで家族で最後にいい時間を過ごすことができました」って言ってもらうと、とっても嬉しい。

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 よく毎日新しいことができるようになる子どもと違って、お年寄りは毎日できないことが増えていくというでしょう。ましてや認知症なら、未来は真っ暗と思うかもしれない。でも、薬とケアを最適化することによって、寝たきりだった認知症の患者さんが自分で歩いてトイレにいったり、最初は仏頂面で一言もしゃべらなかったおばあちゃんがニコニコ「アンタは面白いな」って話してくれるようになるのをボクはこの目で見てきたから。

 認知症でも本人も家族も明るく生きられるお手伝いができるように、ボクは認知症治療のお笑い担当として、これからも地域に根差して頑張っていこうと思います。

高瀬義昌さん ©三宅史郎/文藝春秋

高瀬義昌(たかせ・よしまさ)

1956年生まれ。医療法人社団至高会たかせクリニック理事長。信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了。医学博士。昭和大学客員教授。麻酔科、小児科を経て、2004年東京都大田区に在宅医療を中心とした「たかせクリニック」を開業。著書に『これで安心 はじめての認知症介護』『自宅で安らかな最期を迎える方法』『認知症、その薬をやめなさい』『認知症の家族を支える』など。

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