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「電話ボックスに変な女がおって、ずーっと…」真夜中にベランダの方から聞こえてくる「奇妙な鳴き声」の正体とは

『忌み地 怪談社奇聞録』より「猫が鳴く道」

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 上間は彼女が住んでいたマンションの所在地をAさんに訊いた。Aさんが口にした町名と番地は、あの電話ボックスがある公園のすぐそばだった。

 上間は意外な偶然に驚きつつ、スマホで公園の地図を表示してAさんに見せた。

「実はこの公園にさっきまでいたんです。公園の電話ボックスに女の幽霊がでるって噂がありまして――」

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 Aさんはその話は知らなかったが、公園の近くに知人が住んでいるという。

「電話ボックスで幽霊見たことないか、いま訊いてみましょう」

「昔その電話ボックスで女がずーっと…」

 Aさんは知人に電話してしばらく喋ってから、通話を終えてかぶりを振った。

「そんなん見たことないそうです。でも噂は知ってました」

「夜、電話ボックスのなかに女が立ってるっていう噂ですか」

「いや、ちょっとちがうんす。昔その電話ボックスに頭が変になった女がおって、ずーっと産婦人科に電話をかけてるて話です」

「産婦人科?」

「ええ。なんで産婦人科なんかわからんけど、男に捨てられて頭が変になったていうてました」

 もともとの噂とちがって、産婦人科に電話をかける女は生身の人間らしいが、それ以上の情報はない。取材を終えてAさんと別れた。

写真はイメージです ©iStock.com

 上間はそのあと、Aさんの彼女が住んでいたマンションを訪れた。

 これといって建物に特徴はなく、彼女がベランダから転落した2階の部屋は明かりが消えていた。ベランダの真下にはAさんがいったとおり歩道がある。

 あたりには外灯がともっているが、歩道のまんなかは光が届かず真っ暗だった。

 上間はデジカメとスマホで歩道の写真を何枚か撮って、糸柳に送信した。

 するとまもなく糸柳から電話があって、

「牛蛙の話、知ってるやろ。子どもが牛蛙捕まえにいくやつ」

 牛蛙とは、糸柳が取材した昭和40年代の話である。