「ええ。夜になると女のひとが立ってて、近づいたら消えるってやつでしょう」
「そうそう。その電話ボックスがある公園て――」
ここやで、と糸柳は地図を指さした。
「たしか20年くらい前の話ですよね。電話ボックス、まだ残ってるかなあ」
収穫は期待できないものの、いちおう周辺を取材することにした。
* * *
関西のその公園に着いたのは夕方近かった。
Aさんとの待ちあわせにはまだ時間があるから、それまで取材をする予定だ。
公園に入ると、女があらわれるという電話ボックスはまだ残っていた。電話ボックスのなかには緑色の公衆電話がある。なかに入ってみたが、なんの変哲もない。
上間は公園付近の民家を訪ねて、
「この付近の地理を調べているのですが――」
「町内の歴史に詳しいかたを探しているのですが――」
例によってそんな前口上から聞き込みをはじめた。が、これといった情報は得られないまま、待ちあわせの時間が近づいてきた。
彼女に起きた「異変」とは
上間は公園を離れて駅前にむかい、Aさんと合流すると喫茶店に入った。
Aさんは30代なかばくらいで精悍な外見だったが、物腰はやわらかかった。上間はボイスレコーダーで録音しながら取材をはじめた。
「メールで送っていただいたマンションの話は、いつ頃でしょう」
「10年くらい前っすね。当時つきあっていた彼女が住んでたんすよ。その部屋に泊まってたら、彼女がときどき変なこというんす」
「変なこと?」
「また聞こえるわ、うるさいなあ、みたいなこと」
「なにが聞こえるんですか」
「猫です。たくさんの猫の鳴き声が聞こえるていうてました」