関西のある公園の電話ボックスに、夜な夜な女性があらわれる――巷でささやかれる噂を調査すべく現地を訪れた、実話怪談師の上間月貴氏。取材の結果、相棒の糸柳寿昭氏とともに戦慄した“不可解な偶然”とは?
ここでは『忌み地 怪談社奇聞録』(福澤徹三、糸柳寿昭 共著)より「猫が鳴く道」を抜粋してお届けする。
◆◆◆
20年ほど前、糸柳はこんな話を聞いた。
関西のある公園の電話ボックスに、夜な夜な女があらわれる。
20代なかばから30代前半に見える女が電話をかけるでもなく、だらりと両手を垂らして電話ボックスのなかに佇んでいる。通行人が怪訝に思って近づいたとたん、女は消えてしまう。おなじ話をあちこちで聞いたが、内容はそれだけだ。
「そこでなにがあったんか、ぜんぜんわからへんしオチもない。怪談の取材しとったら、ようあるパターンやね。けど、いろんなひとがおんなじ話するから、ずっと気にはなってたんよ」
昨年の秋、CSテレビ番組「怪談のシーハナ聞かせてよ。」の視聴者からメールが送られてきた。メールは関西在住のAさんという男性からで、彼女が前に住んでいたマンションで不可解な出来事があったという。
上間はその内容に興味をおぼえてAさんに連絡をとり、関西まで取材にいくことにした。取材には当然ながら交通費や宿泊費といった経費がかかる。
ひとつの話を聞くためだけに経費を割くのは不経済だけに、ほかの話も出先で取材したい。したがってその土地の歴史や事件事故などを事前に調べ、移動するルートも決めてから現地へおもむく。
「電話ボックスの噂」を取材することに
上間は出発する前、糸柳に現地の地図を見せて、
「糸柳さん、このへんのことくわしいですよね。どこか取材にいったほうがいい場所ありますか」
糸柳は地図を覗きこんでから、あれ、とつぶやいて、
「だいぶ前にいうた電話ボックスの話、おぼえてるか」