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77年、運命の夏

「人は撃てません」とロシア兵士の声、独ソ戦勝利の裏にある“後ろ暗さ”…ウクライナ侵攻の「片隅」にあるもの

「人は撃てません」とロシア兵士の声、独ソ戦勝利の裏にある“後ろ暗さ”…ウクライナ侵攻の「片隅」にあるもの

特別対談・片渕須直&小泉悠#2

source : 週刊文春出版部

genre : ニュース, 国際, 昭和史, ロシア

note

小泉 私は1982年生まれで“21世紀”という言葉に対して幻想を持っていた世代なんですね。昔のポピュラーカルチャーの中では、21世紀ってもっとキラキラしたイメージだったじゃないですか。それが結局まだこんなことなの? と。

「『BLACK LAGOON』がまだ企画段階の頃、じつは…」

片渕 『BLACK LAGOON』がまだ企画段階の頃、じつは、並行して別の会社でも進めていた企画があって、これがロシアとの合作だったんです。

 1941年、ソ連がピオニールから選抜して特殊教育を施された子どもたちが、少数精鋭の戦闘団を組むという話で。大祖国戦争という名の独ソ戦に投入されたその子どもたちに対して、後方にも撤退を許さないソ連のNKVD(内務人民委員部)の督戦隊がいてそれも脅威であるという設定にしたい。そう提案した途端にロシア側から下ろされてしまいました。

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小泉 そうなんだ……やっぱり。

片渕 それで結局、残った企画のほうの『BLACKLAGOON』をやったわけなんですけど。

『BLACKLAGOON』の21話はバラライカという元ソ連兵の過去話で始まるんですけどね。彼女は少女時代から射撃が得意で、オリンピックで金メダルを取ることで、落ちぶれた軍人家系を復権させたい。そういう想いを抱いていて。軍隊に入るのが近道だといわれて入隊したら、途端にアフガンに派兵され、過酷な戦場でボロボロになり、オリンピックも人生そのものも奪われてゆく。原作のマンガでは描かれていないエピソードで。

小泉 それはオリジナルで。

片渕 いえ、原作者の広江礼威さんの腹案を聞いて、少し自分なりに翻案もしたんですが、社会の深い矛盾の中に落ちた人々、といった感じにロシアのイメージが醸成されていったようなところがあります。

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