恰好の攻撃目標
ここはイルピンの最前線手前の領土防衛隊基地である。
ロシア軍の迫撃砲の射程にすら入っているはずであり、ロシア軍からしたら恰好の攻撃目標である。そこでも女性が迷彩服姿の猛者らと一緒に働いて……というか無償でボランティアを務めているのである。
机のうえには非常食代わりの大量のスニッカーズとキットカットが山積みに、コーヒーもインスタントだが紙コップと一緒に備えられていた。手持ち無沙汰もあり、コーヒーとチョコに手を出すが、食欲なんかあるわけやなし、ただ本能で食料を口に運んでいるだけだった。大教室入り口近くで迷彩服にいちゃんと話し込んでいたデニス(編注:現地の映像プロデューサー)が戻ってきた。
「今日の午前中はないそうだ。ここでずっと待っているのも時間がもったいないので、ほかの現場に行ってみよう」
ため息が漏れそうになった。いまは息が詰まりそうな基地内にいるより、いいか……でもすぐ出発できるよう離れたくない。ほかに行っていたせいで、今日の訪れるかもしれない機会を逃したくない。で、結局連れていかれたのは基地から目と鼻の先にある、これまで何度か足を運んだスヴィアトシンの団地空爆現場だった。
しかしカメラマンの精神構造なんぞ単純なもんである。何度か来た現場でもカメラ握って写真撮っていればイライラももやもやも忘れさせてくれる。一瞬だが。「シゲキ! 急いで戻るぞ!」デニスが慌てて声をかけた。
正午過ぎに基地にもどった。今度は途中で装備をつけるようデニスから指示され、フォルクスワーゲンを道端に止めたままチョッキを羽織りヘルメットをかぶった。平和な日本で見たら信じられん光景であろう。まあ銃声と爆発音が止まない町も十分異常やが、それはウクライナ人の責任ではもちろんない。