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77年、運命の夏

≪東京大空襲≫ガラガラ、ガラガラーッ!B29から籠状の焼夷弾が撒き散らされ下町は火の海になった

≪東京大空襲≫ガラガラ、ガラガラーッ!B29から籠状の焼夷弾が撒き散らされ下町は火の海になった

『文藝春秋が見た戦争と日本人』より#2

2022/08/12

source : 文春ムック 文藝春秋が見た戦争と日本人

genre : ライフ, 社会, 歴史

 当時、僕らは学校で、焼夷弾は地上に落ちてから火を噴くものなんだから、落ちた時すぐに手袋をはめた手でつかまえて遠くに投げればいい、そっちで火を噴くから大丈夫だと教わっていました。そんなの嘘、嘘。それどころじゃないですよ。

 それから、敵は焼夷弾を落とす前に油を撒いてよく燃えるようにしているんじゃないか、と言う人もいましたが、私の知る限りではそんなことはありませんね。実際、この日、私たちの頭上に現れたB29は、1機だけで飛来していきなり焼夷弾を落としていきましたから。

「坊、いいか、すぐ風上に逃げろ。もう駄目だから、逃げろ、逃げろ」

 とにかくあっという間の直撃でした。我が家にも焼夷弾が一発落ち、家が燃え始めた。これはなんとかバケツの水で消し止めることができた。燃えているところを、でっかいハタキで叩いて削り落としたりしながらね。近所の子たちも手伝ってくれたから、少年四人で、「ちょろいもんだねえ」なんて言いながら消したんです(笑)。

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 そうこうするうちに、3軒先の油屋さんが火を噴き出した。これもとにかく消さなきゃいけないってんで、懸命に4人で火消しをやっていたら、おやじがやって来て血相を変えて言うんです。

©iStock.com

「坊、いいか、すぐ風上に逃げろ。もう駄目だから、逃げろ、逃げろ」

 おやじはといえば、家の中から手提げ金庫だけを持ち出して、それを自転車に積んで、今まさに逃げ出そうというところ。

「坊、なにしてる。ぼやぼやしていないで早く逃げろ」

 もう自転車を漕ぎ出していました。事実、油屋どころか火の柱の噴き出している家があっちにもこっちにも。それでいよいよこれは危ない、と一緒に火を消していた連中とも相談して、私も逃げることにしたんですが、その前に家の中から学校のカバンだけ持ち出した。

 なんでそんな一刻をあらそう時に学校のカバンなんてと思うかもしれませんが、実はカバンの中に命より大事にしていたメンコが入っていた。大相撲の幕内力士全員のメンコです。メンコは取ったり、取られたりだから、全力士集めるのは、本当に大変なんです(笑)。

 そいつをいつも後生大事にカバンの中に入れていたもんだから、学校の道具を持ち出したというよりは、むしろメンコを背負ったと言った方がいい。それはいいとして、さてどちらに逃げるかです。

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