東條英機、荒木貞夫、瀬島龍三……軍人たちの肉声を聞き考える。あの戦争は何だったのか。評論家・近現代史研究者の辻田真佐憲氏による「文藝春秋が報じた軍人の肉声」(「文藝春秋」2022年9月号)を一部転載します。

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率先して、あらゆる証言を集めたジャーナリズム

 さきの戦争はいまだにその名称が定まっていない。当時は大東亜戦争。戦後は太平洋戦争。昨今では、アジア太平洋戦争が台頭しているようだ。

 この名称の揺れ動きは、われわれ自身の揺れ動きをあらわしている。

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 さきの戦争はあまりに悲惨だったがため、日本人の共通体験になり、戦後社会の礎になった。われわれはみずからを顧みるとき、いまでも昭和戦前・戦中期に思いを馳せざるをえない。憲法改正の是非もそうだし、安全保障の論議もそうだ。

 あの時代は、われわれとはなにで、どこへいくべきかという永遠の問いを受け止めながら、なんども解釈され、更新されつづける、「国民の物語」の核心部分なのである。

東條英機

 それゆえ、その思考のヒントとなる戦争の肉声は、古くより求められてきた。そしてその需要に応えたのが、ほかならぬジャーナリズムだった。アカデミズムが軍事研究を忌避するなかで、民間メディアこそが率先して、選り好みせず、あらゆる証言を集め、生活者に届けたのだ。

 今回、『文藝春秋』より10篇の特筆すべき記事を選んだ。それをみながら、われわれが今後、戦争の歴史とどう向き合っていくか考えたい。

●1932年9月号「荒木陸相に物を訊く座談会」荒木貞夫/古城胤秀/直木三十五/菊池寛
●1949年12月号「太平洋空戦の総決算 海軍航空参謀の想い出」淵田美津雄
●1949年10月号「運命の海戦」草鹿龍之介
●1954年12月号「私が張作霖を殺した」河本大作
●1963年9月号「バーカー氏との往復書簡」牟田口廉也
●1963年8月号「日本のいちばん長い日」会田雄次/荒尾興功/有馬頼義/池田純久/池部良/今村均/入江相政/上山春平/江上波夫/大岡昇平/扇谷正造/岡部冬彦/岡本季正/楠政子/酒巻和男/迫水久常/佐藤尚武/志賀義雄/篠田英之介/鈴木一/館野守男/徳川夢声/富岡定俊/南部伸清/町村金五/松本俊一/村上兵衛/吉武信/吉田茂/ルイス・ブッシュ
●1968年4月号「生きている十三人の大将」村上兵衛
●1964年6月号「戦後の道は遠かった 東條家・嵐の中の二十年」東條勝子
●1990年9月号「戦後最大の空白 日ソ停戦交渉の現場」瀬島龍三
●2019年6月号「猫を棄てる ―父親について語るときに僕の語ること」村上春樹