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窪島 僕は無謀にもその場で「無言館では毎年4月29日に新成人たちが、彼らと同世代である戦没画学生の絵を前に決意を新たにするという『成人式』を開催しています。来年のゲストとして来てくれませんか」と頼んだんです。後日、希林さんの直筆で「引き受けさせていただきます」と書かれたハガキが届いた。ろくに式の説明もしていないのに。

 さらに金沢での表彰式の帰りに、打ち合わせのために上田に寄ってくれるという。「でも、有名人をどこへお連れしたらいいものか」と迷っていたら、「一番いいのは駅の待合室よ。サインを求められても写真を撮られても、ちょっと我慢していればみんな次の列車に乗って行っちゃうから」とおっしゃった。

 そして当日、駅で待っていると、当然グリーン車から降りてくるものと思っていたら、自由席からトコトコ歩いてきた。それで、「8000円浮いた」って自慢げに言うんです。

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内田 主催者側がグリーン車を取ってくれたのに、払い戻したんですね。母がやりそうなことです。

窪島 すばらしい。僕は惚れちゃいましたよ。待合室ではなく、その8000円で2人でウナギを食べに行った。なんて楽しい食事だったんだろうと思い出します。

 印象に残っているのは、「私ね、あなたみたいなワイルドには慣れてるのよ」だって。

内田 はい、ものすごくワイルドなロックンローラーが近くに1人いましたから。

「普通に家でフラフラしてる奥さんだと思っていたら、大間違いだった」

窪島 也哉子さんのご主人の本木雅弘さんのことは、「彼が来たことによって、ようやく内田家を立て直すことができたのよ」と感謝されていましたよ。

内田 そんなこと言っていましたか。

窪島 成人式当日は、いつもはゲストが帰るとホッとするんですよ。筑紫哲也さんとか菅原文太さんとか山田洋次さんに来てもらったときは、お見送りしてやっと肩の荷が下りたものです。でも、希林さんが帰ったときは寂しくてね。ちょっとがっかりしていたら、電話がかかってきた。「まだいるのよ、近くに」って。

 うれしくて、すっ飛んで行って、別所温泉の旅館のレストランで4時間以上、話しました。ご自分ががんの塊だということをおっしゃっていて、僕もくも膜下出血で倒れた直後だったから、テーマは「死」でした。思えば、亡くなる2年前のことなんですね。