2000年12月には、メキシコシティの郊外のポポカテペトル山が「2日以内に噴火する」という予知に成功した。米国地質調査所のスイス人火山学者のバーナード・シュエットらが、1994年以来活動を観測してきた結果から噴火の近いことを警告、これを受けて政府は数万人を避難させた。予知通り48時間後に1000年ぶりの大噴火を起こしたが、人的被害はなかった。
2018年のハワイ島のキラウエア噴火のとき、監視していた米国地質調査所の「ハワイ火山観測所」がいち早く噴火を予知して、SNSで噴火規模や溶岩の流出範囲などの情報を住民に周知徹底させた。住民は避難して死傷者はゼロだった。
この火山は1983年以降、途絶えることなく溶岩流が流れ出し「活動している火山」として観光名所にもなっている。2018年になって、24の火口から噴火がはじまり流れ出した溶岩が700戸以上の住宅を吞み込んだ。しかし、ハワイ火山観測所は90人の専門家を動員して3交代24時間体制で調査観測にあたり、情報を随時発信した。
噴火予知を複雑なものにしている要因
国内の予知の成功例としては、2000年の有珠山の噴火が知られている。有珠山では1977年に北海道大学有珠火山観測所が設置され、過去7回の噴火経験から有感地震が発生すると数十時間から1週間程度のうちに噴火が発生することがわかっていた。
このため、00年3月27日から有珠山直下で地震活動が高まったとき、住民に緊急避難が勧告された。ただし、この時の噴火予知は、噴火前には地震活動が増えるという経験に基づいて判断したもので、地下のマグマの動きから噴火を察知したものではなかった。
ハザードマップが事前に準備され、適切な避難誘導もあって最大時で約1万6000人の避難者は無事だった。この成功は、北海道大学の岡田弘(名誉教授)の存在が大きい。有珠山のふもとに住み、20年以上も観測をつづけて、有珠山の性格を熟知していた。
逆に、火山活動が活発化したのに噴火しなかった例は、1998年の岩手山である。浅い火山性地震が観測され噴気活動もはじまったものの、結局噴火しなかった。このように予知はむずかしい。
噴火予知には、噴火の「場所」「時期」「規模」「様式」「推移」の5つの要素を適確に予告できる必要がある。それではじめて、住民に避難勧告ができる。だが、地震と異なって噴火の様式によって異なる災害が発生する。「様式」ひとつをとっても、溶岩流か火砕流か、火山灰か火山性ガスか、泥流か土石流か、などで対策も変わってくるだけに、さらに予知を複雑なものにしている。