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「われわれの火山噴火予知に関するレベルというのはまだそんなもの」専門家が明かした“噴火予知”のリアルな現状に迫る

『噴火と寒冷化の災害史 「火山の冬」がやってくる』より #2

2022/08/17
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御嶽山噴火をめぐる訴訟

 2014年9月27日の御嶽山噴火は、死者・行方不明者63人の戦後最多の犠牲者を出した火山災害になった。犠牲者の多くは、火口近くで噴石に当たったり有毒な火山ガスを吸い込んだりしたのが死因だった。

 遺族や負傷者らは、噴火の可能性がありながら気象庁が噴火警戒レベルを「レベル1」という「安心情報」のまま据え置いたことが被害を大きくした、と追及してきた。そして国家賠償法に基づき、国と長野県に対し総額3億7600万円の損害賠償を求める訴訟を、2017年1月に長野地方裁判所松本支部に起こした。

 原告側は訴状では、気象庁が噴火警戒レベルを1から2に引き上げる基準のひとつとして、「火山性地震の回数が1日50回以上あったこと」と規定していたのにもかかわらず、噴火警戒レベルを引き上げることを怠ったことが、主原因だと主張した。実際には噴火直前には9月10日に52回、翌日には85回の火山性地震を観測していた。

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 また、気象庁が地元の長野県木曽町王滝村に対して、「レベル1」であることを根拠に登山者に御嶽山の異常を伝えることをしなかった点も指摘している。しかも、長野県木曽建設事務所は火山活動を適切に観測する義務を負っていたにもかかわらず、御嶽山の2地点に設けた地震計の故障を放置していた。

 国と県は準備書面で「噴火履歴やデータを考慮して総合的に判断した結果、警戒レベルを引き上げなかった」などとして請求の棄却を求めた。

 判決は2022年7月13日にいい渡され、原告側の請求が棄却された。山城司裁判長は、噴火前に観測された地殻変動の可能性について、検討を怠たり噴火警戒レベルを据え置いた気象庁の判断が違法だと認定した一方で、レベルを引き上げていても被害を防げたとは認められないとした。

 噴火後に行われた記者会見で「火山性地震が多発していたにもかかわらず、気象庁が入山規制を発表したのは噴火の44分後だった。なぜ予知できなかったのか」との質問に対し、火山噴火予知連絡会の藤井敏嗣会長は「予知に失敗したというかもしれないが、われわれの火山噴火予知に関するレベルというのはまだそんなもの」と開き直った。だが、問題は連絡会がつかんでいた状況を、なぜ登山者に周知できなかったかという点にある。

 2000年の有珠山の噴火を的中させた北海道大学名誉教授の岡田弘は「明らかな水蒸気噴火の前兆があり対策は打てたのに、初動の遅れが惨事を招いた」ときびしく指弾する。

「噴火リスクを示す兆候は自治体にも情報が送られていたのに警戒レベルを引き上げなかったのは、観光シーズンだった地元への影響も考慮したのだろう」

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