日本は世界有数の火山国であり、噴火による被害をたびたび受けてきた。それだけに、2022年7月24日、噴火警戒レベルが記録史上最高の「5(避難)」に引き上げられた鹿児島・桜島の動向にも注視が必要な状況だ。
はたして万が一の大災害が起こる可能性はどれほどなのか。また、噴火がもたらす被害の甚大さはいかほどなのか。ここでは環境問題研究者である石弘之氏の『噴火と寒冷化の災害史 「火山の冬」がやってくる』(角川新書)より一部を抜粋。富士山が噴火した際の被害予測について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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富士山噴火をめぐる「予知」
政府の中央防災会議は、もしも首都圏を含め南海トラフの「三連動大地震」が発生した場合、太平洋の沿岸地域では最大で30メートルを超える大津波が押し寄せ、最悪のケースで死者は32万3000人、全壊・焼失建物は238万6000棟、直接被害総額は全国で220兆円と想定する。これは内閣府が発表した東日本大震災の総被害額の13倍にもなる。
三連動大地震は90~150年程度の間隔で繰り返されてきた。最古の記録は『日本書紀』に記載された「大和河内(やまとかわち)地震」(416年)。最後は終戦をはさんで襲来した「昭和東南海地震」(1944年)と「昭和南海地震」(46年)だ。両地震の犠牲者は併せて2500人を超えた。
昭和東南海地震は、軍部が国民の戦争に対する士気に係わるとして、報道管制をしいて実態は報道されなかった。全貌は戦後になって明らかになった。
もしも今、想定通りに三連動大地震が襲来すれば、太平洋ベルト地帯を直撃し、人口の半分近い約6000万人が深刻な影響を受けるかもしれない。日本の経済を支えている太平洋ベルト地帯は壊滅的な被害を受け、日本は再起不能のダメージを被ることになるだろう。
問題は過去にも繰り返されたような、火山噴火を誘発するかどうかだ。ときおり「富士山の噴火近し」とするSNSの書き込みや新聞、雑誌の記事が世をにぎわせている。とくに、2021年12月には各地で地震が柤次いだ。
12月3日に和歌山県御坊市で最大で震度5弱を観測した。この震源が、南海トラフ巨大地震の想定震源域に近く、住民の間に不安が広がった。