改定された「富士山ハザードマップ」の被害想定では、1707年の宝永噴火と同規模の噴火が発生した場合、降灰による農作物の被害額は最大で2兆5000億円と見込まれる。また、火山灰による目やのどへの健康被害は1250万人。交通機関では羽田や成田など6空港がマヒし、東海道新幹線も大きく乱れる。マップにはないが、もしも積雪期に噴火したら、「融雪型火山泥流」が発生するかもしれない。平均時速は約60キロ。自動車の速さで火山泥流が襲ってくるので、逃げるのはむずかしい。
1926年5月末に噴火した北海道・十勝岳では、融雪による火山泥流が発生した。死者行方不明者は144人におよび、20世紀以降の国内の火山災害では最大の死者数だった。火山が見えない沢筋で、いきなり火山泥流が押し寄せたため大きな被害が出た地域もあった。
富士山噴火の2時間後には火山灰が首都圏に到達する
いま富士山が宝永噴火と同規模の噴火を起こせば、風下に当たる首都圏では江戸時代とは比べものにならない大きな被害になるだろう。
中央防災会議は2021年3月、首都圏が受ける想定被害を公表した。火山灰は、噴火から約3時間で都心に押し寄せる。噴火後の15日目には都庁付近では10センチほど積もり、東日本大震災で発生した廃棄物の10倍に当たる総量4億9000万立方メートルの火山灰を都内から撤去しなければならない。
改定されたハザードマップでは火山灰の降灰予測は、2004年の前回予測を更新していない。だが、その後ますます人口が集中し産業が集積している東京―名古屋―大阪を結ぶ太平洋ベルト地帯は、その真ん中の東海地方で新幹線や在来線、高速道路や一般国道が噴火で断ち切られることになる。
富士山火山防災協議会のホームページにはこう書かれている。
「富士山が噴火した場合、 周辺で1万3600人が噴石の被害を受ける。さらに噴火の2時間後には火山灰は首都圏に到達し、都内だけで10トン・トラック205万台分の火山灰が降り注ぎ、電気設備がショートし大規模停電などになる」
島村英紀(元北海道大学地震火山観測センター長、北大名誉教授)は次のように警告している。
「世界的に見ても、300年以上ぶりの噴火は大規模になる可能性が高い。大噴火にならないまでも、風下には世界最大の都市圏である首都圏がある。人口密集地への被害を考えたら、破局噴火でなくても破局的な被害になる」