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 航空業界で有名な事件は、1982年にインドネシアのガルングン山噴火のさいに発生した。飛行中の英国航空のジャンボ機が火山の噴煙の中に突っ込み、数分の間に4つすべてのエンジンが停止した。飛行機はなんとか噴煙から脱出し、エンジンが再始動できて無事に着陸できたがあやうく大惨事になるところだった。

 フィリピンでは1991年のピナトゥボ山の噴火のとき、18日間に16機の航空機が飛行中に火山灰をエンジンに吸い込み、そのうち2機のエンジンが停止した。2010年のアイスランドのエイヤフィヤトラ・ヨークトル噴火では、ヨーロッパなどの28ヵ国で航空運行が大混乱に陥った。キャンセルされた航空便の数は、2001年の米国の同時多発テロ時の飛行停止を超え、第2次世界大戦以後でもっとも多かった。航空各社が被った被害は1600億円を超え、工業部品、医薬品、食料品の輸出入が止まって、物価にまで影響をおよぼした。

インフラ破壊

 東京23区内に10センチの降灰があったとすると、火山灰の量は東京ドーム約50杯分になるという計算もある。この膨大な量の火山灰をどう処理するのかも大きな問題だ。

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 10センチの降灰は、1平方メートル当たりの重さが100キロを超えて建造物に被害が生じる。降雨時に30センチ以上堆積すると、木造家屋は重みで倒壊する。新燃岳(鹿児島県、2011年)の噴火では、数センチの灰が積もった地域で屋根が壊れ建物が全壊した。

 送電線に3ミリ以上の灰が積もりそこに雨が降ると、碍子(がいし)の絶縁が低下して停電を起こす。数センチになれば、火力発電所では広範囲にわたって停電する恐れがある。2016年に発生した熊本県の阿蘇山の噴火では、火山灰によって熊本県と大分県の約2万7000世帯で停電した。また、5センチ以上堆積すると、ガスタービンや製造機械などの機器を損傷する可能性もある。

 降灰と降雨が重なると、基地局の通信アンテナに火山灰が付着して通信障害を起こす。ハイテク機器は細かい火山灰にきわめて脆弱であり、コンピューターに入り込めば通信機能がダウンする。2ミリ以上で浄水場の機能を停止させる。新燃岳の噴火では、下水管が詰まって下水があふれ出した。上水道は水質が悪化して、浄水施設の処理能力を超えると飲用に適さなくなる。

図表制作=小林美和子